傘がない 作田 教子

【10月11日掲載】自由詩 傘がない

傘がない 作田 教子

(遠くのいちばんよりさ、近くの二番でよくない?)
ファミレスの奥の席の女の子たちが
小鳥みたいに話していた
恋愛には比較が必要なのだ
でもさ、基準が曖昧でカフェラテみたいな味
クリームのついた上くちびるを舐めたら
雨が降りだす
遠くには行けない 
 
(女房を食わして、子供いて、車のローンあるからさ
 そんなにご祝儀包めないっすよ)
ドリンクバーのコーヒーに砂糖はいらない
礼服を着た男の子たちは友人の結婚式帰り
結婚には覚悟も必要で
それでも結婚式は晴れてほしいよね
 
幸せのすぐとなりには
思いがけない溝があって
たまに足をとられて落ちて転びそうになったりする
わたしはファミレスのコーヒーが
やけに薄味なので眠いまま
雨の空を見上げている
 
スマホのニュースでは
観測史上最高の雨があっちにもこっちにも降って
コーヒーが雨に薄められた気がした
(行かなくちゃ、きみに逢いに行かなくちゃ
 傘がない)
って揚水は歌っていた
 
色を通り抜ける透明なビニール傘が
街のなかで飛べない羽になる
飛びたてる羽にみんなあこがれて
空を見上げている

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