聞かない耳 荒川 純子

詩「聞かない耳」荒川純子

聞かない耳 荒川 純子

現在から逃れたいと思う
消えてしまいたいと思う
いっそ気がふれてしまった方がいいと思う
ふいにいなくなってしまいたいがそれは優しさではない

ただ私には未練がある
見たい未来があって
行きたい国があって
もう一度食べたいものもある
本音は生きていたいのに
生きたくない衝動がまとわりつく

目と鼻と耳のうちどれを失えるか
目はすでに0.001の近視で見えないようなもの
鼻をなくせば管を身体に通し自由が奪われる
耳なら埋めるだけだろうか

耳をふさぎ何も聞かなければ
私はここを去ることができるかもしれない
聞かなければ不安になることもない
聞こえなければ振り向かなくていい
聞かないことはひとりと同じだ
ひとりならなんでも耐えられる
ひとりなら何も必要ない 
ひとりなら

耳を失えるか
未練を従え孤独を欲して聞かない耳と生きていけるか
逃れたい衝動と想像ばかりが私を包んで膨らんでいく
弾けて消えるかしぼんでしまうのか
想像だけは私が主導権をもつ
生きながら生きない方法を模索し続ける

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