岐路   横山黒鍵

0924

岐路   横山黒鍵

草を噛んだ苦い汁が頬を染めてわたしの緑に変わる。解った嬰児た
ちの微笑みと空の移り変わり。頬を撫でるのは皺だれた手の温もり
とくすんだ紫。
紫蘇を揉んだ手は人を殺した手に似ていて、祖母の首を締める手拭
の縞はかつて流れた雲の形にも似ていて。
飛び立ったのは蝶でしたか、蝶にはなんと名をつけましたか。
いいえ、追いかけても捕まえられないもどかしさに声をあげて
昔ながらの呼びかけに答えられる口は羽化して、抱卵前の柔らかさ
にとくとくとむねを打ち。
わたしの歯は苦い葉の汁に染まりその歌声に添います。そっと。
それは母が告げてくれた弔問歌にも似ていて。
飛蝗が跳んだ。
紫からキレイに剥離された澄んだ青と濁った赤の脈拍は薄い、白い
薄い皮膚に丁寧な水路を穿ちました。
だしぬけに背骨から青空にかけて、
この季節は美しい季節です
仰るとおりですね、風の行路がくっきりと見えるようで、たくさん
の歯、が笛を吹きます。
うるやかな吐息。
先っぽだけ泥濘んで、頬杖をついた記憶の中に肘が破れているので
はありませんか。あなたは眼鏡を直して、ずっと前を見続けていま
した。ほころんだ私達の空気に飛蝗が斜線を引いて、とんとんと巻
きました。きっと良い繕い物が出来るのでしょうから。
凸型レンズの向こうに焼け焦げた麦がみえ、
染むように整えられていった、母の髪には
焼け焦げるような雨が、止むことをしりません。
袖の直しが終わらないままにうめつくされた冷気が花咲いてとても
なめらかに沈んでいました。
あなたは静かに涙ぐんでいるようでしたが、絞られた朝露でもあり
ました。梅干しの壺は重いからと、ためらわれた一口に面白いよう
に歪んだ歯と、影が飴玉と一緒にポケットからこぼれ落ちていきま
す。
遠くを見たいものです。ただしい風景の沈む泡泡のなかで、
同じ質量に閉じ込められた窓際のコップに
わからないまま揃えられた前髪は戦ぎ
浮かんでは消え、浮かんでは消え
草を編んだ苦い汁が手から溢れて、そうしたら黄色い帽子を被って
あなたはそこの角を曲がり
見えなくなってしまうでしょう。
見えなくなって、飛蝗が跳んだ。
つまむ手の形をそのままで。

タグ:

      
                  

「自由詩」の記事

  

Leave a Reply



© 2009 詩客 SHIKAKU – 詩歌梁山泊 ~ 三詩型交流企画 公式サイト. All Rights Reserved.

This blog is powered by Wordpress