デジタル   尾久守侑

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デジタル   尾久守侑

なかったことにされたときから
記憶がもどらない
冷凍庫のような港区を
電車はただ、走っていて
わたしは、坐席の前に立ったまま
考えがまとまらないでいる
あなたのことはそれほど

なかったことにされたときから
視野にかかっていた
霧のような、なにかを
魔法使いの青年が
ディスプレイで再演している
わたしがあのころたしかに
いろのついた景色にいたこと、それは
科学でも証明できるのでしょうか

年末になるとひとは
だれもが紺色の顔になって
意識もないような挨拶ばかりしているね
パッとわらったり
ないたりして
甘いのみものくださーい
って、いない店員をよぶと
うでまくりをしてジョッキを運ぶわたしが
よろこんで、とさけんでいる
普通を装うのが自然すぎて
かえって透明になったみたいだ

まどから見える競技場の前に
たくさんの思念が
あてもなく漂っている
ディスプレイにふれるときえる
まふゆの亡霊を眺めながら
わたしはわたしとあなたのいた
おぼえのない世界を
彷徨いつづけていた
(あなたのことはどれほど)

なかったことにされたときから
港区は
港区は、ずっと雪
ひともいない紺色の電車が
気象にかこつけて
誰かを傷つけていることを
わたしが知らないとでも思ったか

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