暗闇   尾久守侑

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暗闇   尾久守侑

未来が急になくなった気がした

暗闇、という唄を
ふるい写真にうつった
想像の女学生たちが歌う夜は
ひとの多い街を歩きながら
目を凝らしても、何もみえない
ゼロ ゼロ ゼロ ゼロ
やけくそに
架空の視力検査に答えて
全問不正解になる
哀れなぼくを、笑ってほしい

画面をタップして
じっと待ってみたけど
誰も笑ってくれる人はいない
実体のない二段バスが
青山一丁目を通り過ぎると
車体に、虹色のペンキで描かれた
むなしい
という、存在しない文字を
思わずつぶやいてしまう、ああ
哀れなぼくを、笑ってくれないか

画面をタップして
じっと待ってみたけど
語尾を変えたって駄目だ
誰にでもある暗闇を
あほみたいにアップロードするな
そういう大きな声がいきなり
後頭葉をつらぬいて
がばっと布団から起き上がると
未来が急になくなった気がする
こんなことを、永遠に繰り返して
本当は暗闇のなかに
目を凝らしても、何もみえない暗闇のなかに
とどまっていたいだけ
報じてほしくないことばかり報じる
7時のニュース
ブラウン管を蹴っ飛ばした

青山一丁目
自転車を青春の顔をしてこいで
タクシーをぬきさった
電光掲示板に
ワールドレコードという
ふつうの嘘が表示される

(きみはきみでいいんだよー)

いきなりCMみたいな夏服の女の子サマーセーラーが進路を妨害して
わかったような口をきくから、ぼくは
いかにもきみと話したいけど
緊張してなにも話せませんという演技で
きみを無視して通り過ぎていく

きみはさぞ満足しただろう?
ぼくはもう、振り返らないけれど
これまで通り過ぎてきた道が
まだ暗闇に包まれていることを知っている
でも、その暗闇はどこか
青い気もしている

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