内側    上手 宰

自由詩

内側    上手 宰

外からやってくるものを
心待ちにしすぎると
がまんできずにで外に出てしまうことがある
その瞬間
待ち続けていた内側が消える

いつもの郵便ポストが見当たらない
しかたないので そこに立っている人影に
思わず手紙を渡してしまう
棒のようにそこに立っていたので—-
夕暮れにはよくあることだ
渡されたほうだって拒絶はできない
一度もポストでなかった人などいないのだから
そう思ったとたん 来る人くる人から 
次々と手紙を受け取ることになる

英語のpostにしたところで
最初は杭とか棒の意味でしかなかった
それがいつの間にか内側を育て
何かを待つようになってしまったのだ
内側は痩せた目印の陰にできる

郵便の集配人がやってきた
ポストがないのであたりを見回している
外から来る人とは
この人だったのかもしれないと
さっき受け取った手紙たちを渡したら
両腕でも持てないほどの量があった
内側に入っていたものは
外に出すとあんがいかさばるものだ

いつの間にかまたポストが出現していて
杭のような棒のような人影は消えていた
集配人はいつものように
ポストの後ろ側に鍵をかけている
内側は鍵をかけると安心するからだ
赤くて四角い箱は ずうっとここに居ました
という顔をして 彼を見送る

そんなふうに
今日の夕暮れは終わる
夜になればまた内側が育っていくだろう
いつまでも子どもの「心待ち」が
あどけない顔で
外から来る何かをまた待ち始める

上手宰(かみて・おさむ)(かみて・おさむ)
1948年東京生まれ。千葉大学哲学科卒。
同人誌『冊』編集人。詩人会議・日本現代詩人会会員。
詩集に『空もまたひとつの部屋』、『星の火事』(壺井繁治賞)、『追伸』、
『夢の続き』、『香る日』、『しおり紐のしまい方』(三好達治賞)、
選詩集に『上手宰詩集』(新・日本現代詩文庫56)。

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