三面鏡
どこ向いて座ってもいい困ったら部屋でほほ笑む熊手のおかめ
啄木鳥にためらいはなし嘴を絶対的にただ繰り出せり
胸元に真珠を飾る私の口紅の色いくたび変わる
恋人と母はどちらが強いかと考えながら食べるミニパフェ
一筋の飛行機雲のはじまりも終わりもない線指でなぞりぬ
逢うという約束は物質のごとあるのみラッコと鼻突き合わす
私の集中どこから来るものか部屋にくぼんでいるビール缶
君の眼鏡かけてぐんにゃりする世界指先だけをつなげて歩く
脱皮して走り続けしゴキブリがビニール袋の中でも走る
三面鏡に表情しだいに変えながら向日葵が水吸い上げている
作者紹介
- 川口慈子(かわぐち やすこ)
かりん所属。第五十一回短歌研究新人賞次席。二〇一〇年かりん賞受賞。