風警報 広坂早苗
ひんやりと海上風警報の朝 黄葉(もみじ)ふりやまぬ街路をあるく
希臘(ギリシャ)からわが名を呼べる絵はがきに星座のような文字光りおり
さやさやと風にそよげば冬青(そよご)という葉はつややかに光を弾く
わが生に冬青のような一日のあれ風にあらがい尖れるみどり
南吉の恋を思えば曼珠沙華火を噴くごとき矢勝川(やかちがわ)見ゆ
いいわけをメールに載せて送信す胸もと冷ゆる秋の夜の更け
夜の空をひとひらめくり仕立てなば喪の服は身にやさしかるべし
逃げ水のごと遠ざかる晩年か死は夭き日に親しかりしを
スカーレット・オハラの無知と驕慢をかなしみながらたどる終巻
封を開け折り目をひらく時の間もやさしいあなたからの手紙は
ものうげな白きまぶたのひらひらと降り積もるなり福島は雪
職場より送りし一太郎ファイル居間にひらきて業務をつづく
作者紹介
- 広坂早苗(ひろさか さなえ)
1965年生まれ。1986年に活動休止していた「早稲田短歌」を復刊する。
「まひる野」所属。歌集『夏暁』(2002年)