みえる、みだれる   岡野大嗣

  • 投稿日:2017年06月03日
  • カテゴリー:短歌

岡野短歌

みえる、みだれる   岡野大嗣

行き先は忘れたけれど空港でアキレス腱を伸ばした記憶

リスニングテストの漏れる校舎から欧米人の巨大な会話

掃除用具入れの扉の隙間から教室に差している夕日のおこぼれが差す

エスカレーターの地割れにのぞくいきものがメロンソーダの光線を出す

点字ブロックの点からの影が午後五時を知らせている高架駅

ラッピング待ちの時間に消えてったさっきさわったつつじのにおい

祖父が四連続で観た、ってエピソードで足りてその映画を観れてない

映像が一部乱れてみんなからはぐれて春のほどよい寒さ

国語便覧が荷台にはためいて正岡子規が空をみている

落ちてきて画面に光る雨粒をスクリーンショットに撮りかける

あるとして季節の中で春にだけ副音声の鳴っている夜

街灯のつもりでみてた丸い月がそうとわかってからふくらんだ

みえなさとみえてなさだけみてたくて観覧車には夜にひとりで

追悼の流れで知ったmixを聴きながら橋を長く歩いた

二回目で気づく仕草のある映画みたいに一回目を生きたいよ

岡野大嗣
歌集『サイレンと犀』など。

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