からっぽ   森本直樹

  • 投稿日:2019年03月02日
  • カテゴリー:短歌

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からっぽ   森本直樹

眠りたくなくて来ている喫茶店のケーキケースの下段からっぽ
ブレンドコーヒーフレッシュなしと書かれたる伝票用紙が折りたたまれる
シャッフルで流れる曲のあいみょんの愛称なんだと思っていた名前
パチンコ屋の前に並んでいるうちの一人がマンホールを撫でている
ペットボトルを捻り潰せば手のひらに浅くくい込むいくつかの尖り
コインランドリーの手前のごみ箱にやたらと捨ててあるレジ袋
古着屋の暗やみに立つマネキンがあまりに痩せているような気が
いつの間にか小雨が降っているなかの私の肩にシャツがはりつく
指を鳴らし損ねてしまう短めの息継ぎほどの音を残して
コンビニの前に立ちたる逆光の人が誰かに手を振っている
好きだった音楽が耳に馴染まないそんな時間が来る、唐突に
私の翼であったはずのものたとえば自転車あるいは珈琲
鍵穴に鍵を差し込むひとときに傷つきあっている音がする
生ぬるい水道水にむせ返る気恥ずかしさが溢れるように
フライパンの底に圧されてたわみたる青白い色の炎を思う

森本直樹(もりもと なおき)
94年三重県生まれ。未来短歌会所属、too late同人、恣意舞裏威頭構成員。Twitter:@naohai_mori

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