秋分の水平線を時計とす

【9月20日掲載】詩歌トライアスロン 秋分の水平線を時計とす

秋分の水平線を時計とす 中家菜津子

飛行機のはめ殺しの窓から
地図になった世界をのぞく
空と海は区別ができないほどほどけあい
太陽の合図を乱反射してはてしないから
辺のない明るいこわいものになって
早くとけてしまおうよと笑っている
 
半券に貼られたシール 青ならば鳥も魚も深さを生きる
 
それをはっきりと二度拒絶して、陸地は黒々と開かれていた
シートポケットから地図を取りだし眼下の世界と重ねあわせる
あらあらしい意味を与えて半島の名を呼ぶと
飛行機のエンジン音に粉々になってばら撒かれた音が
波打ち際でほうほうと泡立っては消える
生まれた町の灯台のある岬を起点に
海岸線のカーブをなぞれば耳朶と相似
曲流する指の動きに宿るさざ波のリズム
それは舞踊だと気づく
ちいさなものにおおきなものを入れ子にして納めるための
 
田畑や森や山々の緑のコントラストに
静脈のようにちりばめられた道を辿ってゆくと
指先からは微かに梨の香りがする
指の踊りの中に住まう人々の二拍子の呼吸音
梨棚の梨を捥ぐために空へ向かって差しのべられた
まだ何も掴んでいない掌の輪郭の
一瞬の完全さに
今、人差し指で触れているのだ
硝子越しの平面では物足りなくなった指は
唇や瞼の膨らみに丘や山の隆起を感じ取った
わたしはわたしをはみだしておおきなものになっていく
 
君のうで半島としてつかむとき指のすきまに風はうまれる
 
捲れていた水平線を風がひゅるりと巻き取り
水面で銀色に輝くステンレスの太陽と結びつける
昼と夜の長さが等しい一日
それは時計として梨を捥ぐ人の腕にはめられていた

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