花曇り 田中庸介
波を打つその判断の難しさついに涙を飲みて逃げ出す
いくつかの選択の末
そのような結末になったことへの
悔恨がやるせない
「十分に予期できたはず」言うほうも言われるほうも慣れっこだった
なにを判断の基準としても
その場その場の判断が
結果として
誤謬を深めた
じりじりと照りつけている逃げ水にわれわれの歩あまりに遅く
だがいずれそれは
流れていく時に
せめてもあらがおうとする
人間の足掻きのひとつにすぎない
流し目の観音様の立つというこの蓮池のほとりを巡る
時はとまらないし
取り返しもつかない
そう望んだとしても
やり直すことはできない
なべてこの過ぎゆくような細き道ぽつんぽつんと石仏の立つ
ああすればよかった
こうすればよかった
と言うことはあっても
世界の複雑さは
すでに判断の埒外にある
よもや最後の一日となろうとは誰も露にも思わなかった
その複雑さを
判断の
行為の
及ぶ範囲に
縮約しようとするときに
もちろん
そうしなければ問題は解けないのだが
どうにも
それにあらがう
負の圧力
として感じられる
何ものか
があり
「日常の延長としての非日常」意識一度も戻らざりしか
たとえばそれが
重要な法事に
故人の位牌が忘れられてしまうとか
重要な朗読のテキストが
手の届かないところに
遠ざけられてしまうとか
くるっと
どうにもこの場を
支配している相手に
打ち負かされてしまう
「運が悪いとかそんな次元ではなく超常現象ですらもなく」
そういう相手に
まっこうから立ち向かったり
かんたんにお祓いしたりすることは
とうてい出来やしない
あいては
超自然の
「必然」そのもの
なのだから
愚かなりまったくもはや愚かなりエスカレーター歩くおれたち
ああ
ともだちになればよいのか
あきらめて
ともだちになりさえすれば
遠慮なく
四月の
風が
吹いている
観音が
ひらひらと街を
流している
ようやく
少し
立ちなおって
くわんのんの堂の後ろや花曇