自由詩「測量船に寄せて」他 小暮 沙優
短歌
透明なこころの描く十牛図ぐるりぐるりともどれよここに
「わたし」という一人称など消えてゆけただ一筋の架け橋となれ
境界線とらわれていた境界線崩れろはやく走れよはやく
「絆創膏 キズをやさしくガード」しかし傷に優しく触れろよ君よ
ローレライ調べと共に鎮めるか うらみくるしみしっとよくぼう
ひとつの現象その中で交錯せよおんがくことば火花をちらせ
シューマンの調べにつれてほろほろとこぼれていくよなひとつのおもい
旋律の輪舞の中におぼれゆくトランペットと響きと轟
五線譜の枠の中からあふれだすこの光芒の渦のまにまに
つよき聲たけだけしき聲鬨の聲そちらではないやさしき聲を
俳句
米を研ぐ爪をみつめて五月闇
路地裏の幻なれや罌粟坊主
ひとおもういたみひかりも梅雨の星
木耳食む仔猫の耳を憶いだす
父の日やスマホ見つめて三時間
なにもかも浄まるがよい夏祓
ぐるぐるり茅の輪のメビウスを描く
禊とは何に対して午前五時
心流す形代流すわれ流す
あと半分水無月祓空見上げ
自由詩「測量船に寄せて」
透明な階段などない
透明な階段などなかったのだ
外壁にもたれかかり
雫は垂れるばかり
雫は零れるばかり
力なく両手はだらり
ただこのままにこのままに
嬰ヘ短調の憂鬱に
ただこのままにこのままに
ゆらりゆらぐ輪郭に
このままに
ただこのままに