第8回詩歌トライアスロン融合作品選外佳作①
「秒針」 遠音
わずかにうねる細道のまなかの指に舞い降りる白のざらつき
遠い陽をとじてとぽりとぽり歩き出していけば
公園の下の象は身じろぎ
平らな周回は果てしない坂道に傾いてゆく僕は
靴の減りのままに生きてきたから
鳴き出す前に死ねるだろう
安心して背骨の溝をひとつ
ひとつ越えていけば
左手首の外側がきしきしと縒れて
ゆく意識の周辺で腕時計をまさぐると
秒針が震えて
凍えて
いた
短い指の腹でさすってやる
時間がひっかか
っ
ているうねる
冬のきびすが立ち去りかねて
こちらをふり返る
気づかわしげに見つめられて
いつかのぼたん雪のやわらかさが左手をかすめる払い落とす
象が
風が
起きてしまう前に
踏み出せば枯れ木が身震いをしている
こらえ切れなかった隣の木もその向こうの
木も震え上がり皆次々に花を吐き出してゆく
目を伏せて花の津波をくぐりゆく
象はまだ
また
鳴かない
なにも信じていないのに
祈りの拳を解くことができ
ない渡りきれるようにすり切れ
ないようになんども何度も踏む象のはらわたを太ももが
きしむわき腹がよじれる僕は
鯨の噂象の身じろぎわたつみの鎮まりきらず花はたわわに
寄宿学校 さとうはな
こころよ。手放すときにたましいはつめたくなるね 永遠のあかり
わたしたちは鐘の音で目覚め 朝のお祈りをする
寄宿舎の寝室はうつくしい言葉で満たされていく
天にいますわたしたちの父よ
御名が聖なるものとされますように
わたしたちは連れ去られ、言葉をうばわれた
あたらしい言葉でわたしたちは、祈り 食事をし 勉強をして 神さまに感謝をする
あなたたちは文明化されなくてはなりません シスターは言う
シスター ポリッジをちょうだい
ここはとても寒いの
もとの言葉を使うと棒で打たれるの 石鹸を食べなくてはならないの
わたしは もとの言葉もほんとうの名前ももう思い出せないけれど
So called, Cultural Genocide.
ときどき、ママと暮らしていたティーピーを思い出す
水牛の皮でできたティーピーは、夜には風の音が聞こえた
部族の大人達の歌も聞こえた
ここで夜聞こえるのは、子ども達のすすり泣く声だけ
御国が来ますように
みこころが天で行われるように、
地でも行われますように
They believed that they were bringing civilization to us who could never civilize ourselves.
太陽のおどりを踊って メアリーは打たれた
大きなこわい人が来て メアリーを何度も棒で打った
罰と、悔い改めだけがたましいを救うのです シスターは言う
血を吐いてメアリーは死んだ
シスターはメアリーに水色の服を着せ ちいさな棺に入れた
わたしたちは棺を教会の裏庭に運んだ
わたしたちの日ごとの糧を、今日もお与えください
メアリーはほんとうの名前を教えてくれたことがある
メアリーのほんとうの名前はアポニ
だけどお墓に名前は刻まれず 灰色の丸い石が置かれただけ
花びらになれない生の終としてあなたはたったひとつの棺
裏庭を歩き回ってはいけません そこは天国に通じる道
花かんむりを作ってはいけません それは死者のための王冠
もとの言葉を使うと棒で打たれるの 石鹸を食べなくてはならないの
うつくしい花をえらんでかんむりを作った遠い春の祝祭
わたしたちの負い目をお赦しください
わたしたちも、わたしたちに負い目のある人たちを赦します
死んだひとのたましいは天国にいくのです シスターは言う
棺のなかの子どもたちはみな 幸せな天使のように見えた
私達は天国で皆、神様の子どもとなるのです シスターは言う
鳥のように飛んで逃げたい
病気で死んだサラは言った
鳥なら遠くまで行ける 柵をこえて 雪原をこえて 森をこえて
飛んでいける
ママや 部族のみんなが住むところまで
凍河とは果てのない闇 前のめりのたましいのまま飛ぶかわせみよ
シスター おくすりをちょうだい
ここはとても不幸なの
もとの言葉を使うと棒で打たれるの 石鹸を食べなくてはならないの
もとの言葉を忘れたわたしは
自分がなにものであるかもわからなくなって
舟なのか 鳥なのか 雪なのか 棺なのか 水なのか
もうどうだっていい
シスター おくすりをちょうだい
ここはとても不幸なの
私たちを試みにあわせないで、
悪からお救いください
ママ、ママ、どうかわたしたちを忘れないで
わたしたちがわたしたちの言葉を忘れてしまったとしても
わたしたちがわたしたちの名前を忘れてしまったとしても
記憶とはひかりの中の 常に火と地平線とを見つめ続ける
Thousand of unmarked graves of Indigenous Children are found in plain.
銃器の丘にて あさとよしや
ずっしりとしたテクスチャー 柩の列なる幹線道路
ためいきが固形になって棚引き暗雲 もう百年
一世紀近くも戦い続けている
まさかとはおもうけれど、遠のいている? ツキが……
(そう、あるい太陽も)
奇跡も? (偶然も)
まちかまえ 銃器の丘で 先手打つ君の手にある 九十九式短小銃
すみません!
本日は、別件で読書会の参加が難しくなってしまいました
来月の参加とさせてください
よろしくお願いします
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必然のままに傷つけ合う腐れ朽ちた肉魂と罅割れた骨
まわりがどんなにビルディングの建設ラッシュでも
止まない戦闘、銃器の丘の攻防、いつまでもいつまでも
このままでは夜明けはやってこない
(ツキも顔を出さず)
奇跡も起きない
(偶然も)
必然のまま
(永遠)