第8回詩歌トライアスロン融合作品選外佳作②
未知の水 ケイトウ夏子
飲み終えたばかりのエナジードリンクには
最後の一滴はあるのかないのか
確認するごとく傾ける仕草で
覗き込む
(縁取るペンを手に入れる)
さわさわと底の方から響く
風は目を潤したのでしょう、
コンタクトレンズ外した瞳へとうつほの息継ぎほつほつ届く
昨日も今も月が出ているという
「細い月だ」という伝聞を受けた
窓辺に立つ
ごつごつとした岩の雲が一つ前の景
疲労を宿した瞳の奥から日が暮れる
明るさを容れる器はありふれて最後に見つめる己の指紋
ねじれの位置にある人生訓を繋いでいく旅で
進化した、鈍麻した糸を見せてもいいですか
懐き始めた動物の毛並み
ここにあるものとして撫で続け
紡ぐ未知の水を溜め
暮れる、影として
もうじき両足の間に引かれた日付変更線が色付く
はたらくひと 星野珠青
打刻機は動作不良や多喜二の忌
わたしが雨に打たれるとき
体温はじわじわと奪われるのに
「耐えてくださいね」と言われる
何も感じてくれない 何も伝わらない
どうしてあなたには何も届かないの
江戸川をまたがなければ稼げない日々に見合った夢が足りない
僕が世界に苛つくとき
神様に歯向かってやりたいのに
「従ってくださいね」と言われる
何も見てくれない 何も信じようとしない
どうしてあなたには何も届かないの
あれは星、じゃない飛行機、僕はただ誘導棒を光らすだけの
俺が怒りを諦めるとき
激しい耳鳴りがしているのに
「ミュートになってますね」と言われる
何も聞いてくれない 何も響かない
どうしてあなたには何も届かないの
支給されたのり弁にメーデーの陽射し
使うひとには使うひとの正義があり
使われるひとには使われるひとの矜持がある
解り合えないことは悲しい
釣り合わないことは苦しい
それでも
今日も働いている
〈自分は価値のある人間なんだ〉と
自分を騙し
社会に騙されながら
今日も働いている
あなたが他人(ひと)の感情を削ぐとき
瞳は濁りを増してゆくのに
「任せましたからね」なんて言う
何も知らない だけど 知りすぎてもいけない
それにしても どうして
あなたには何も届かないんだろう
我々に通じることのない語彙を集めて作る就業規則
そこらの石 もちゅ
そこに石があった
佇むそれは動じない
(我は強くない、そう見せているだけ)
ここにも石がある
近すぎて見えなかった
(まるで空気のような扱い、失礼だ)
春光 石に照らすは 希望のみ
どこに石がある
わたしが飲み込んだ
(その石は、どこへゆく)
苦塩よ そこに石あり 飲み込んで 哀しみだけは 苦しみだけは
あそこにあるのは石かおまえか
(石にも心がある、わたしは知っている)
もうどうにでもなれと思ったが動けない