第9回詩歌トライアスロン融合作品受賞連載第3回 mirage 早月 くら

第9回詩歌トライアスロン融合作品受賞連載第3回
mirage 早月 くら

でもそれは踊りのようで 万華鏡 どのビルも入口は混みあう

遠ざかる夢をみたことゆっくりとあなたは白いマフラーを巻く

それぞれに還る岸辺があるとしてそのどれでもない冬の朝の空き地

ある朝、そこに空き地はあった
午前七時のつめたく青ざめた空気をふんだんに集めて
どの朝も視界の右端に映るそこが空き地になる前
そこにはたしか、薄桃色のアパートがあった、気がする
いまはもうわたしの記憶の中だけに建っているアパートの
街からすこし浮いたようなその色を証明する術はなく
証明する必要もなく
ただわたしはそれを薄桃色だったと信じるのだろう、しばらくは
信じていると残したかったのだろう、もうしばらくは

不在とは美しき誤解か枯芒

記憶の中の薄桃色が 日々  うすれて   ゆく

耳鳴りで町はどこまで澄むだろう清潔さへと傾きながら

クロノスタシス 炭酸を捻るときあなたは恋に落ちないとわかる

想像はしなやかな舟、音だけの異国の雨が光りやまずに

とりとめに隠れた鳥が逃げてゆく森はもうじき影をうしなう

その空き地には柱が立った
家になるようだった
覗き込むと向こうから風が抜けてきて
檜の匂いにまみれる
柱は家の骨組みだから、これは檜の匂いの骨を持った躰

外套にあなたの骨の香を孕む

もうじき骨組みはていねいに覆われて、きれいな家になる
生まれるときに骨は隠されて
(あのアパートの骨も木の匂いがしただろうか)
次に光に晒されるのは
(あのアパートは何色だったろうか)
夕暮れのほうから強い風が吹いて
右手に提げた骨付きチキンの包みが揺れる
あかるい路地は晩餐へとつづいている

閉店後のディーラーでずっと光ってるクリスマスツリー 呪いは解けた?

冬薔薇を抱いて仮定は澄んでゆく

めくるめくホイップクリームあなたへと犬歯見せれば信仰のよう

続編がなくてよかった、終わらないままで薄れてゆく物語

年の火へ焚べる言葉の降りつもる

ここからは余談。白磁になみなみと熱い紅茶をつぎたして言う

世界はとてもうるさい待合室だからどうか合図を見逃さないで

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