星の窯 中村安伸
砂糖壺に軽き蓋載せ水の秋
鼓の紐すこしく甘し女郎花
颱風来泡のやうなる部屋にゐて
葡萄果の断面覗く飛込台
新宿や梨剥くたびに雨の降る
秋雨やこのマンションは爬虫類
名月や格子に水を頒ちつゝ
発声練習名月の肌荒れてゐる
ミラーボールに手紙貼りつけ秋彼岸
憂鬱は葉書のかたち金木犀
十月は音を乗せたる文字に罅
十月の星焼く窯のちひさけれ
長女には花野は踊るところなり
作者紹介
- 中村安伸(なかむら・やすのぶ)
1971年、奈良県生まれ。
2004年「―俳句空間―豈」同人。
2009年『新撰21』(邑書林)に参加。
2010年、第三回芝不器男俳句新人賞・対馬康子奨励賞受賞。