黄金週間の時間旅行 雨谷忠彦
浅草の活動小屋に親しめどつひにテレヴィを観ざりし茂吉
「お早よう」に小津の描けるTVの翳りはじめてあらずやいまは
黄金と大型と如何な呼ばはれどネットの波ぞひたひた寄する
の由緒ただしき闇に座し十二回目の祭りをはじむ
名を知らぬ
きつとみまからむ暗くなるのを目瞑りて待つ
連休の谷間の底をあゆみゆく就活女子のひかがみ白し
ひざまづき嘗むれば苦くリカちやんのドールハウスに靴は転がる
早世を遂げしカフカは統計の生涯未婚標本たらじ
古今集撰進の日に五十の賀むかふるならむ穂村弘よ
早朝の天候ばかり気にかかるその日のための専用グラス
ドリカムの「時間旅行」にかこつけて指輪のならぶかたはらを過ぐ
の一人と断じられてゐる生涯はまだをはつてゐない
作者紹介
- 雨谷忠彦(あまがいただひこ)
1961年神奈川県川崎市生まれ 歌誌かばん所属