カクテルの混ざりあふまで寒の雨 阪西敦子
カクテルができあがるまでとできあがったあとで読みは二通りあるか。私は前者で読んだ。「混ざりあふまで」の「まで」は、店に入り、コートを脱いで席につき、カクテルを頼み、バーテンがシェイクし終わるまで。「寒の雨」は、降ってもいようが、わが身が先ほどまで歩いてきた寒の雨のにおいを帯びたままなのだ、ということでもあるだろう。あるいは、昼の仕事の何かすっきりしない気分までも引きずってもいようか。この句には言外にそのような一連のしぐさや気分がまとわりついてくる。カクテルがカウンターのグラスに注がれ、やっとスイッチが切り替わる。これからゆったりと大人の時間を楽しもう、というその一歩手前の、昼と夜の狭間の身と心のうつろう様を暗に感じさせることを眼目とした句だと感じた。大方はそのどちらかしか詠まないと思うのだが、なんだか昼の余情と夜の余情の取り合わせのような句。
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作者紹介
- 橋本 直(はしもと・すなお)
1967年愛媛県八幡浜市生。「豈」同人、「鬼」会員。
神奈川大学非常勤講師(俳句研究)。現代俳句協会青年部長。
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