第8回詩歌トライアスロン三詩型融合部門候補作 うたう覚悟について 水城 鉄茶

第8回詩歌トライアスロン三詩型融合部門候補作

うたう覚悟について 水城 鉄茶

第一部 小雨の日に

個人的な話だが、短歌をやる意味がいよいよわからなくなった(川柳はバグのようにできてしまうのでどうしようもない)。2022年4月24日(日)、小雨が降っている。これから第一号を作ろうとしている詩の同人の、メンバーであり親友だと思っているOくんから連絡が来た。

相談というより結果報告の感じできみがやめたいと言う

「歌人が近代詩・現代詩をひもとくとき、否定されるにちかい存在の危険が来るかどうかうたがわしい」(「『日本の詩はどこにあるか』の後に」)と藤井貞和は述べているのだが、ほかならぬ藤井の詩がそうした危険な強度を持ったものとしてあると思う。現代詩文庫の『藤井貞和詩集』を、この田舎の荒廃した自室や、そこを逃れて東京に向かうJR湘南新宿ラインの電車で読んで、そう感じないわけにはいかなかった。「火の夜明け(秋・冬)」、「哀傷」、「神祇・恋」、「精神の作品」、「暁に」、「秋唄」、「栴檀」。このように自由にうたうことができる……。それで、「いよいよわからなくなった」。だから自分のほうは短歌をやめようかと思っていた(短歌をやめるとは実際どういうことなのかはわからない)。すでにあまり作らなくなってはいたのだが。藤井貞和を薦めてくれたのはOくんだった。Oくん、おれはきみを親友だと思っているけど、きみはどうか。理由はこうかと推測して尋ねたが返事は来ず、

自転車を漕ぐしかなくて漕いでいるこれくらいなら耐えられる雨

今日は遮断機は下りてこなかった。

詩型を横断するというときに、どれだけの書き手が痛みや「存在の危険」を感じながらそうしているのだろうか。たとえば詩と短歌を融合させるというときに、短歌を詩に奉仕させていいのか。短歌が上手く「組み込まれ」、「こなされた」詩。それでいいのか。

  雨脚のバロメーターになりながら眼鏡はおれの視界を壊す

自転車に乗りながらでも外せるな、眼鏡 メガネ 田舎の道を

同人のTさんはものすごい詩を書くひとだが、短歌には目もくれない。彼を唸らせるようなものが書けなければやる意味がないと思う。短歌。今日は日曜日だが、スカイプを使用しておこなう同人の会合が19時からある。Oくんはそれに欠席するという内容から連絡を始めたのだった。雨は少しだけ強まってきて、コンビニに入る。やりきれない気持ちで走りだしたのではあったが、サンリオのカードつきウエハースが欲しいという気持ちも最初からうっすらあったことを告白しなければならない。ある意味、サンリオのかわいいキャラクターのために、わたしは雨に降られていた。不思議な気持ちで。

悲しみのなかで小雨の降るなかでハローキティのレアカードかよ

セブンイレブンの少しの軒下でひとりウエハースを食べている

  どうなるかさっぱりわからないけれどいまわたくしのくちいちごあじ

  マイメロの母はふぐ刺しだったのだ

どういうわけか、詩でも川柳でも俳句でもなく短歌を作らずにはいられない時があり、それが今日だった。そして、うたうことを通して、深いところで慰めと癒しが生じたことは疑いがないし、それは今日に限ったことではないのだった。

暁にみかんは腫れて抒情する 友の返事を聞かずに終わる

第二部 息吹

  バースデー・ソングは歌い出す前の表情さえもバースデー・ソング

/谷川由里子『サワーマッシュ』

歌に死ぬ

覚悟はあるか

今朝は凪いでいる

遠くバイクの唸りが聞こえている

デスクライトが点いていて

消す 夜から点けっぱなしだった

シーリングライトも  消した

少し暗い

これくらいがちょうどいいのかもしれない

いま

この時には

昨日は酔って

あまりにも眠くて

本棚と添い寝してしまった

ベッドに本棚を置くな

本棚のパーツを

外出中に届いていた

それでとんでもない体勢で眠っていたのだ

今日は組み立てる

素手で

スチールラック

歯を磨けよ

午前8時

祝日 どうもやる気にならない

やる気がないならやるんじゃねえよ

コアラのマーチ しばくぞ

北海道から怖いひとが

ドラゴンズファンがやってくる

エンジン音 近い

おれもドゥルドゥル鳴って

そろそろ血走ってくるさ

指先

小刻みに震えだして

茨城

ここもたしかに前線だよ

東京に

行ってきたんだが短歌の ふだんはおどけた

おっさんが酔っ払いながらおれの

席にやってきて 書く姿勢について熱い

気持ちを語ってくれたんだ びっくりした

書くこと 励ましてくれた 熱く熱く

ハグしたくなった 書くこと こうやって

また一歩

一歩 進んでいく

おれは

短歌をやめようかと思っていた

〈うた〉の器として限界があると思った

でもそれは

ぴったりの思いで満たされたとき

ひとつの奇跡なのだ

ほっぺたに当たる風にはほっぺたがある ずっと仲良しでいたいな

/谷川由里子

言うことはない

ただ

死ぬまで

繰り返し口ずさむだけだ

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