成りゆきの葉 野村喜和夫

成りゆきの葉 野村喜和夫 1
成りゆきの葉 野村喜和夫 1

成りゆきの葉 野村喜和夫 1

成りゆきの葉 野村喜和夫 1

成りゆきの葉 野村喜和夫 1

成りゆきの葉  野村喜和夫



という漢字の正しい書き順を
ネットで検索したら
線分は下降し上昇し
右往し左往し
いったい誰が決めてるんだ
こんな書き順
まるで蠅の狂ったような飛跡そのものではないか
何度見ても複雑で覚えられない
こんな字書けなくていいや
はえ
ハエ
で十分
 

早朝はドローイング
と友人の画家はいう
アトリエに出かけて壁に大きく
線を描いていると
線がそのまま身体の動きの痕跡のようで
それを目で確かめているうちに
自分が取り戻され
元気が出る
と友人の画家はいう
 

線のつぎは面だ
たまさか夕刊をひらくと
「雨音はまず落葉より起こりけり」
という俳句がみえ
その隣に樋口一葉
が売文をきらい雑貨屋をひらいたという話
かくて飽くことがない
言の葉の連なりの
ゆかしさよ
 

おいでよヴィーナス
臍にピアス
したきみを
ひらがなにしてあげよう
そうして乱れ髪や
花のいのちは短くて
を抜け
あかねさす
紫野まで連れて行ってあげよう
おいでよ
おいでよヴィーナス
 

でも日本ではあまりいいこともなかったしね
ジャワに移住して車夫になり
合歓の木の下で
とろけるような午睡をするんだ
とべつの私は語った
 

そう
椰子の茂みに蔽われた御堂であなたは
いかにもねっとりとした午睡を楽しんでおられました
寝釈迦仏とか命名されて
 

名はさらに
あおむし
ししむら
らふ
ふらち
終わらない
終わりたくない
という思いが
泣き腫らしているような
夕映え
 

夜になっても
全力で少年であれ
スカートのなかの劇場へ眼を忍び込ませたり
膝がしらに暴動の未来を匂わせたり
丘の廃屋で光年の雫を飲んだり
全力で少年であれ
不穏であれ

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