冬至の前 吉野令子
そうです
すべては
私たちの
間違いによって
はじまったのです
*
白昼にはじまったいかがわしい地表の蠕動そ
の悪意の蠕動について幾重もの不安な噂が流
れ流れてそしてそれから九か月が経って九か
月が経って夜半の獅子座流星群の落下それに
よって草叢に溜まった汚泥はそうそうです私
たちのおかした罪は私たちの小刻みに震える
心は私たちの痛みに砕けてゆく身体はそうそ
うです気配そうそうです闇が重く軽くきらめ
く深い沼をおもわせる無星の空そこから傾斜
した項のうえにいまこのときを告げるために
投げうたれる血にまみれた夥しい小鳥の骸骸
そうそうです気配いまいる此処から明確に何
処と述べることはできないもののそうそうで
す其処で限りなく倫理に近くそれでいて全く
異なるまだ名づけられていない何かそれを見
知らぬ誰かが見知らぬ誰かにむかっていや見
知らぬ誰かがまだ私の知らない私にむかって
与えるそうそうです罪いいえそうそうです未
知の私が未知の私に与えるのです
*
——そして
T都S駅南口
偽りの朝のゆるやかなはじまりのなか
気がつくといつのまにか老年の
あなたと私のふたりは
親に逸れたのでしょうか
それとも
私たちをふたりが勾引したのでしょうか
小学校二年生の男児と女児の手を引いて
K街道の交差路への坂を下っているのです
ぼく今日は大勢の人に会いたいな
と片方がいう と
私髪を伸ばしはじめようとおもうんだ
と片方がいう
*
その朗らかな
会話を
聞きながら (冬の朝の
坂を下ってゆく
*
<ナルべク心ヲ朗ラカニ保ツヨウニ心ガケテ>
(2011・12・11)