きのこの方法 和田まさ子
表参道の三番出口を出ると
山の頂上にあがったようで
きのこがたくさん生えている
クルシミで凹凸のできたアミガサタケ
割ると内耳のかたちのフクロタケ
躍動的で赤いベニテングタケ
きのこはヒトの靴にムザンに踏まれるが
やがてゆっくりと起き上がる
「マツタケ山はどこだ」
と親戚中に聞かれても絶対に答えず
「あっちだ、こっちだ」といっていた長野のおじさんは
ある日、山に行ったまま帰ってこない
きのこになったと語り草だ
ヒトは急ぎ足で集まってなにをするのだろう
二○二一年九月
日曜日の午後
青山の路地裏では寄りつどって
大声で笑い合う
どんな滑稽な話がまだこの世にはあるのだろうか
感染症と闘うためには
日々を迂回するための体力が必要だ
呼吸とストレッチ
丹田で吸って吐いて
毛細血管まで空気を送ること
いつまでたってもからだは慣れないが
呼吸法、やるべきことはやるつもり
芳香も腐臭もあるきのこは
匂いできのこ同士のつきあいをする
その方法があった
またしてもニンゲンカンケイに狼狽し
こんがらがった話をまとめようとして
動きまわるが
近寄らないで生きていく
きのこの処世術から学びたい
ニオイカワキタケは甘くて強い香り
美味しそうだが
食用にならないきのこで
長野のおじさんと似ている
手ごわい人だった