権力と花山椒   辻聡之

  • 投稿日:2019年01月05日
  • カテゴリー:短歌

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権力と花山椒   辻 聡之

寒き海なりし記憶のあふれくる朝朝水を湯へと変えつつ
立ったまま履く五本指ソックスの先に迷える兄さん姉さん
知らぬ家の蝋梅に鼻寄せおれば賑わしく小学生ら過ぎたり
(スクロール)芸能人の(スクロール)水道民営(スクロール)猫
ドライアイスのごとく痩せゆく後輩のそれくらい仕事してくれ頼む
大人は努力きらいだもんね 和三盆に似たる議論をさくさく終えぬ
決済の判子みなみな傾ぎおり窓より遠く荒ぶ風たち
北を向く壁に絵はあり絵のなかの恋路ヶ浜に雪は降らずも
課長になるまでの時間のはるかなる梢にメンフクロウの沈黙
権力に憧れていし立ち漕ぎの空の高さに人はあらざり
ぼくたちのまだ倫理観つたなくて口の端からこぼすタピオカ
守衛のおじさんがくれたるおみやげの人形焼がみな無表情
お歳暮のフルーツゼリーゆうかげに透かせば翳りはじめる果肉
今すこし冬の空もつ膀胱に雷雨のごとき尿意は来たり
蛇口より硬貨紙幣は出でずして暮らしを水に替えつつ今日も
衆院通過を告ぐるネットの一文がしずけく宙に浮かびていたり
昔観たおぬしも悪よのうという台詞がうねりつつ今届く
声を飲むように発話をしてしまう螺鈿細工の喉をひからせ
友人とうなぎ食みたり韜晦のどこから来るのだろうおまえは
半透明人間ぼくもここにいて街路に花山椒のいろどり

辻 聡之(つじ さとし)
一九八三年、名古屋市生まれ。「かりん」「短歌ホリック」所属。
二〇一八年、第一歌集『あしたの孵化』(短歌研究社)。

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