バスがくる 本多真弓
こぬかあめこもれびこどもひかりつつ空から落ちてくるものは詩語
神殿の名をもつ映画館ありき若きわたしのはるか渋谷に
神殿は破壊されにき星を抱く五島プラネタリウムとともに
つるぎたちみにそはねどもまぼろしの春とギターを青年は負ふ
気がつけば渋い感じの男優も崖より覗くごとく年下
生首をのせてわたしの肩は凝るうごく歩道に乗らずに歩く
自裁した人の日記を本にした本の残りがあと数ページ
いちねんに二度くらゐあふともだちがひとりだけゐてわたしをささふ
海はわたしを待たないけれどどうしてもポートサイドへゆくバスがくる
本多真弓(ほんだまゆみ)
未来短歌会所属。第一歌集『猫は踏まずに』(六花書林)