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浮橋島温泉ホテル抄 平居 謙

【9月27日掲載』自由詩_浮橋島温泉ホテル抄_平居_-1

浮橋島温泉ホテル抄 平居 謙

       二〇一四年八月 九州 浮橋島に遊ぶ
 
 
 
美しい女
フロントの女は美しい。男たちは洒落た言葉を見つけられ
ずに、室内装飾の煌びやかさを褒める。田舎の温泉地には
不釣合いな欧風のホテル。秘密はカウンターの下に隠され
ている。白昼夢のようにチェックインの時間が流れてゆく。
彼女は静かに微笑んでいる。しかし男たちがもう一言何か
言おうとする瞬間を見計らうように、カーテンの裏側から
やくざ者の顔つきをした骨太い男が現れる。そして何の用
もないのにレジスターの鍵を回しては、中の札を数え上げ
る振りを繰り返しする。
 
白い蜘蛛
あなたが居ない間に白い蜘蛛が冷蔵庫に出たわよ。と受話
器の向こうで恋人が言う。白い雲か。詩的なことを言うね。
それは冷えすぎて霜が降りたに違いないよ。いいえ、紐じ
ゃないわ、ちゃんと動いていたもの。じゃがいもの上を這
ってたのよ。真っ白な蜘蛛が。真っ白な雲か。真っ白な雲
が山や川の上を這うように空を流れてく。「一つのじゃが
いもの中に山も川もある」と高橋新吉は書き、おおい雲よ
と山村暮鳥は話しかけたんだ。冷蔵庫の中の白いものは、
雲じゃなくて僕の魂なんだ。君に、熱くなり過ぎたんで、
魂を鎮めていたのさ。僕がそう言うと電話が混線してぷっ
つりと切れてしまった。ふと見ると、部屋のシャンデリア
風の燈から一匹の小さな白い蜘蛛がぶら下がっており、よ
くよく見ると女の顔をしている。「君に熱くなり過ぎたで
すって?そういうの気持ち悪いわ。」白い蜘蛛が喋ったの
で僕は思わず後ずさりした。
 
夢の浮橋
この旅では阻むものを強く意識する。島の最大の見所であ
るはずの「夢の浮橋」。非情な高度で島と島とを結んでい
るらしい。空中の吊橋のようなものを想像する。ガイドブ
ックに小さく書かれているのを見つけて、どうしても行き
たいと印を打っていた場所だ。島民の案内なしに自力で辿
り着くのは難しいとある。しかし人家はすべて廃屋に過ぎず、
唯一の島民らしいホテルの従業員は何を訊いても静かに微
笑むか、恨みの籠った様な目で睨みつけてくるかであって、
案内を乞うどころではない。仕方なく独歩。このあたりだ
と見当をつけた枝道がことごとく途中で獣道のように変わり、
やがてはその先に小さな泉が現れたり、奇岩がごろごろし
た行き止まりであったりして、何度試してもたどり着けない。
名状しがたい空白感の中、「これが最後」と半ば投げやり
な気持ちで試した道の先に急に視界が開け、真下に小さく
潮の流れが見えた気がした。足ががくがくと揺れている。
あまりの高さに正気が薄れてゆくのを感じている。
阻むものは去った。
 

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