せんせい   中家菜津子

【11月15日掲載】詩歌トライアスロン縦書き

せんせい   中家菜津子

紙を折る。浅い眠りに降るチョークの雪、混濁の半分を祈る
せんせい、の顔は広すぎて輪郭線を保てない
肺の半分は石灰まみれで校庭にゴールラインを引く
反対側に辛うじて吐く息で、死にたい。とつぶやき
虫籠に採取された言葉はいつかシーソラスの脱出の項目に載る
 

 

  辞書の死のページに君の親指は指紋をのこすチョークの粉で
 

 

紙を折る。雨に濡れた山茶花の白い花びら、蠱惑の1/4を祈る
セーラーの襟のラインに着地する紙飛行機の尾翼には
去年、遠雷の校庭から飛ばした時に書いたサインがある
おかえりなさいとはじめましては紙の上では矛盾しない
せんせい、何度別れても、その旅ごとに巡りあう数列が
呪文のように波打って書かれているから
 

 

  ササン朝ペルシアにひいた水色のラインはかすれ遠雷を聴く
 

 

紙を折る、もうこれ以上折れなくなるまで6回繰り返す
アラビックヤマト糊越しに見た琥珀色に蕩ける世界の
せんせい、の腕はひろがりすぎて地平線を保てない
7回目、ちからまかせで乱暴で内側からひりひりするひかり
逝くことと行くことが紋白蝶の標本の虫ピンの上で放電している
 

 

  蝶々のわずかな羽音どこまでが夢でもよくて隣に眠る
 

 

紙をひろげる、
窒息していた平面は、くしゅくしゅに隆起して漸く風が生まれた
せんせい、のストライプのシャツの青い線だけが呼応して、靡く鬣
七回目の折り目が雪紋を描くので2Bの鉛筆で片隅にゆきのと書く
白紙の青さに眩んでまなうらからは初潮の匂い
折れ線どおりにあなうらから丁寧にちぎられてゆく身体
せんせい、今がいつでもいいんだよ、この空ならば
深く息をして

  乱暴に折られた保健だよりから微かに匂う雪のひとひら

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