なにかと四月 藤島秀憲
まわり道したるがゆえに根津神社の裏に拾えば桐の花なり
躑躅(つつじ)とてはつか匂うと咲く花に顔を寄せればわが顔も寄る
長めなるうたた寝せしも弁慶は勧進帳をまだ読んでいる
花道の七三(しちさん)に来て弁慶がしばらく幸四郎に戻りぬ
しゃぶしゃぶと肉を揺らせる箸二膳不出来な鏡獅子のごとくに
次の世は短い髪のよく似合う女に 傘をひるがえす雨
引きずれる足をあわれと見ていしが芸のパワーは足を隠しぬ
多摩川の水くろぐろと流るるに現役のまま生涯を閉づ
芸人がみずから命たつたびに〈かつて〉〈こんな〉と思い出されん
日曜の夕べ主題歌流れおり四月は使い過ぎるなにかと
作者紹介
- 藤島秀憲(ふじしま ひでのり)
1960年、埼玉県出身。「心の花」所属。
歌集『二丁目通信』『すずめ』。
「短歌研究」にエッセイ「短歌と笑い ときに寄り道」を連載中。