夏酒 (natsu-zake) 西之原一貴
仕事場は、あるいはふかき青葉闇とも思ひたりバス降りてのち
行間といふ自意識のひかりあり アト0.5ポツメテミル
投げやりなわけではないが少なくとも感慨はなく「校了」を捺す
炎帝の歩みのなかに何となく口ずさみをりイージュー★ライダー
溜まりたる疲れの抜けぬことなどを乳酸みたいと言つてわらへり
リサーチを終へたついでに触れてみるたとへば転職サイトのバナーに
正直に言へば詩語よりいつか来る老後のはうが気になる (YES/NO)
他部署の友をさそつて尋くことも仕事らしい 「ホンマの悩みは何や」
夏酒の酸増せば酸のうたがひに寄りそふ振りをするのも情か
何も言ふなと思ひつつ俺は尋いたのだ ほのあたたかき驟雨に濡れて
同僚を友と呼ぶなとのたまへる上司ありその見解も肯ふ
詩にならぬ数かぎりなき日常のひとつとしてあり友の離職は
手づから切つた花ではないがあかるくて、明らかにその手助けをした
ゆふぐれの草のひかりを追ひかけてゐたいがいまはそこから遠い机だ
濡れながらみづに浸れる水草をながめゐしのみ橋を渡りて
作者紹介
- 西之原一貴(にしのはら かずたか)
1978年鹿児島市生まれ、京都市在住。「塔」所属。「豊作」「神楽岡歌会」に参加。