突入 岸野亜紗子
柊の垣根に蔦は入りまじり築かれて来し家族のあまた
いきどほり揺れやまぬ木よわたくしの言葉届かぬその幹の洞
叶はねば切り離したり雷を孕みて雲はおほぞらをゆく
冬の日の畝ばかりなる地を歩み一神教にすこし近づく
方舟に乗りあはせたり荒れすさぶ海を己のなかにもそなへ
川下に向かひてひしがれたるままに草透けてをり光のなかに
文庫本にふたつ続けて載せてあり潘金蓮を殺すくだりを
経済のまへには無力なるものをわれの巌のひたひを洗ふ
生ごみを折込ちらしもて包む をはりにどんなことばはのこる
窓をなべて圧して朝のひかり満ち電車はけふへ突入をせり
作者紹介
- 岸野亜紗子(きしの あさこ)
1978年生まれ。「朔日」[sai]所属。