日めくり詩歌 短歌 斎藤寛(2011/11/01)

早朝はいちばん安い塩パンもまだあたたかい涙のようだ   野樹かずみ

野樹かずみ+河津聖恵『christmas mountain わたしたちの路地』澪標[みおつくし]刊、2009年1月)の冒頭に置かれた野樹さんの歌である。早朝のいちばん安い塩パン、と言えば、決して裕福とは言えない暮らしの日々が思われるだろう。あるいは、買い求めたパンではなく、配布されたパンなのかも知れない。それをしもまだあたたかい涙のようだ、と野樹さんは詠う。新聞やテレビが伝える情報によって詠まれた歌ではない。実際にその地へ足を運び、その地のひとたちと交わりながら詠まれた作品である。その地とは、フィリピンのとあるゴミ山。そこで生き抜くクリスティーナという7歳の女の子(モデルが実在したそうだ)が、一連の主人公として登場する。

短歌と詩のコラボレーションの作品である。野樹さんの短歌に呼応して、詩人の河津聖恵さんが詩を付けてゆく。《塩パン、そこから何を想像できるか/たった一個の固いパン、ざらざらとしてぺったんこの/つねにいつも最後の晩餐・・・・》というように。この作品を読む時は、黙読ではなく音読すること、それもボソボソとではなく、一人朗読会でもやっているつもりになって気持ちを入れて音読することをおすすめしたい。

この『christmas mountain わたしたちの路地』に続いて、同じく野樹さんと河津さんのコラボの作品として『天秤 わたしたちの空』(洪水企画刊、2009年12月)が刊行された。こちらは、シモーヌ・ヴェイユに思いを馳せる作品である。また、野樹さんの“ソロ”の歌集として、『路程記』(ブックパーク刊、2006年)『もうひとりのわたしがどこかとおくにいていまこの月をみているとおもう』(洪水企画刊、2011年)がある。

ちなみに、『もうひとりの・・・』は歌集中の一首をそのまま歌集タイトルにしたものだ。御中虫さんの句集『おまへの倫理崩すためなら何度なんぼでも車椅子奪ふぜ』(財団法人愛媛県文化振興財団刊、2011年)も同じ趣向だった。こういうタイトルの付け方が流行ると、本の注文伝票などを書くのに手間がかかりそうだ、などとなぜかきわめて実務的なことを思ってしまった。

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