日めくり詩歌 短歌 吉岡太朗 (2012/03/20)

花びらの枯れたところも歯ブラシの影もみつけている五年生

――やすたけまり「すなば・パレット・植物図鑑」『ミドリツキノワ』

 

 さて前回に引き続き、やすたけさんの作品です。 
一読していい歌だと感じました。「みつけている」という表現が非常にユニークです。 
作中主体はおそらく五年生よりも下の学年なのでしょう。その作中主体が自分では気づけなかったであろう、花びらの枯れた部分や、歯ブラシの影をしっかりと観察し、描写している五年生の絵筆。仕上がった作品のなんと自分の絵と違うことか。 
子どもの頃というのは、自分より年上の子を見て、なんてたくさんのことを知っており、なんて大人なんだと思うものだと思いますが、そのまなざしがここでは再現されています。

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 ところで、「いい歌だと感じる」と言いましたが、これはどういうことでしょうか? 
こどものまなざしが再現されているから「いい」歌なのか、再現されたまなざしを「いい」と思うのか。作者の表現力に対して「いい」と思うのか、作中主体のまなざしに対して「いい」と思うのか。言い換えるなら、技術(a)を評価するのか、その技術によってもたらされた効果(b)を評価するのか。b=「よさ」、a=「よさ」を作り出している技法や手法、と言ってもいいです。aなのかbなのか。 
答えは両方でしょう。ただし同時にaとbの体験があるわけではなく、まずbがあって、bの理由を自問する過程でaを導き出すというのが、一般的な「いい」歌の体験だと思います。

 aに至らないbというものも考えることができます。 
なぜいいのか分からないが、「いい」歌だと思う歌。分からないからこそ「いい」と感じられる歌。明確には言語化できないような「よさ」のある歌。 
反対にbのないaもあります。実感を伴わない批評です。それなりの水準に達している歌というのは読んだ時に大した感興がわかなくても、とりあえず褒めることができます。 
 それをする意図は様々かと思いますが、作者の技量の高さを持ち上げながら、自分では一切感じなかった感想を、さも自分の鑑賞体験であるかのように語ることは、短歌の批評に慣れていれば少しも難しいことではありません。

 bのあるaに基づいた批評(A)と、bのないaに基づいた批評(B)の判別について。 
言うまでもなく、他人には判別できません。bがあるかどうかは、言うまでもなくその批評を行う本人の内面の問題だからです。もちろん実感があって言っているかどうかで、口調や筆致は異なってくるでしょうから、推察することはできますが。 
 では本人にはどうか。判別できる場合もあれば、そうでない場合もあります。自分がどう思っているかということは常に明確とは限らないのですから。 
 ここで考えたいのは、bのないAです。 
 その歌を読んだ瞬間、とても「いい」歌だと感じた。なぜ「いい」と感じるのだろうと考えて、それを言語化することができた。しかしそれを言葉にして他人に語ったためにか、あるいは単に時間が経ったからかは知らないが、気づけばもともとの感動が遠のいている。けれど、一度「いい」と思った評価は何となく変えづらく、「いい」歌だと思い続けている。 
 皆さんにとってどうかはわかりませんが、私にとって「いい」歌とはそういうものです。「いい」と思わせる体験自体は遠く失われても、その「いい」と思った記憶だけはいつまでも残っていて、だから「いい」のだと言い続ける。 
 これはBを口にすることと何が違うのか。

 ところで、最近ベストセラーになった近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』を、同居人からすすめられて読んでいたのですが、そこでこんな文章に出会いました。 
 昔付き合っていた人からもらった手紙も全部捨ててしまいましょう。手紙の一番の役割は、受け取った瞬間にあるのです。 
 読んだ瞬間、「短歌もそうに違いない!」と思いました。 
 といっても短歌=手紙ではありません。短歌から手紙が配達されてくるのです。「読み」という名の手紙が。つまりbが。そしてbを受け取った読者はそこからaを導き出し、必要がある場合はそこからAを組み立てる。 
 bの価値はその時だけのものであり、bが古びることで、aもAも色あせていく。けれどその短歌自体が古くなったのではなく、読みの耐用期限が過ぎたのです。 
 他人の批評をきいて歌が輝き出す瞬間というのは、短歌をやっている人なら誰でも経験するよろこびだと思います。(ちなみに最近では私は、このやすたけさんの歌集批評会での穂村弘さんの批評に深いよろこびを感じました) 
 それはその時、再び手紙が配達されたということなのです。

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