日めくり詩歌   短歌  高木佳子(2012/10/03)

祖母に来る手紙のうすさすくなさよ角ととのえてタオルを畳む  野口あや子

『夏にふれる』(2012年・短歌研究社)より。

どなたかが話しておられたが、今年は歌集がゆたかな年だとわたしも思う。とりわけ若い人が刊行した作品に佳品が多いように思う。
『夏にふれる』は野口あや子の第二歌集。正直言ってこの人がこんなに早くふたつめの歌集を出すとは思わなかった。しかも収められた歌の数も相当に多く、たっぷりとした分量で、読む人を選ぶようにも思う。歌集に収める分量の適当さ、というのはこれまでにも断続的に論じられてきたことだけれど、それでも作者は歌の、自分のすべてを込めずには居られなかったのだろう。この歌集には未発表作品も収められていて、彼女の現在の生へのスタンスや葛藤、憎悪や愛情など、すべてさらけ出したように読めて、小気味よささえ感じてしまうのだ。

掲出歌は「From your daughter」の中にある。この一連では、女親に注目して家族関係を詠んでいて、祖母を亡くして幾程か経った時の歌がひときわ心にしみる。歌の中で、亡くなった祖母への手紙が徐々に少なく、厚みまで薄くなるという様子を発見し、「よ」という感嘆の助詞で嘆きを表す。祖母の死については、この歌が収められている一連の少し前で描かれていて、祖母、母、自分、妹と続く女系の中に生きた女性として祖母を見つめた歌となっている。

「角ととのえて」タオルを畳むしぐさからは、この人がかっきりとした性格であることが伝わってくるようだ。そして、祖母の死というものについて区切りをつけているようにも思える動作だ。自らの生にこれまで深く影響を与えてきた祖母は、母という存在を産んだ存在でもあって、作者は一人の女性の死について、そのめぐりの人々を視野に入れて様々に思索する。


自画像として(えが)くとき母親は改行のない感情だった


助六の置かるる場所はほの暗くいとこはとこの進路を聞きぬ


庇護をすることのやさしく軋みつつ櫛の目として古びる家よ


同じ米食んでむらむら太りゆく女系家族の箸は短し


ちちはは祖父祖母いもうとの毛髪がからまって浴室に囁く

互いに庇護しながら、だが愛憎も烈しく、浴室にからみあう毛髪のように共に依存しながら暮らす家族の姿を詳細に描く。
いつも何かしら息苦しく、憎しみ合いがより強く出てしまう家族のなかで、作者は、それのみにとらわれず、ときに柔軟さや妥協も身につけ、家族間での「処世」を身につけてゆく。ひとりの女性の成長の様子さえこの歌群からはみてとれるだろう。
「箸は短し」「浴室に囁く」・・・・様々な具体から、シンボリックに意味するものをうまく操作して詠む手法に、この人の独特のセンスを感じるし、彼女のファム・ファタル的なファクターにもさらに磨きがかかっているようで、読者としてははらはらしながらも深く味わうことの出来る凝った一冊だと感じた。

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