七曜詩歌ラビリンス 5  冨田拓也

10月某日

短歌の総合誌『短歌現代』が今年の12月号をもって終刊するとのことである。創刊されたのは昭和52年(1977)で、これまで34年間にわたって刊行が続けられてきたという。歌人で同社社長の石黒清介氏が現在95歳であるという事実には、正直非常に驚かされるところがあった。

そういえば、俳句の方でもこの間総合誌である『俳句研究』が休刊となったばかりである。

そもそもこれまでが総合誌の数については少し多すぎたという側面もあるのかもしれない。現在でも、俳句と短歌については、総合誌の数というものはその数が幾分か減少したとはいえ、まだ相当に多いといえそうである。昔は、俳句でも短歌でも総合誌の数というものはせいぜい2、3種類程度だったのではないかと思われる。

10月某日

この「詩客」のサイトにおいて、毎週「私の好きな詩人」という連載が行われているが、個人的には毎回誰が取り上げられるのか、興味深い思いで拝読している。

このシリーズを現代詩のみならず短歌と俳句でも「私の好きな歌人」、「私の好きな俳人」と題して毎週連載を行えば相当面白いかもしれないなと、編集部の方々の大変さや苦労というものを全く顧慮に入れず、勝手気儘なことを考えてしまう。

10月某日

『俳コレ』(週刊俳句編)が邑書林より12月上旬に刊行予定であるとのこと。

内容については、『新撰21』、『超新撰21』に続く、現在活躍中の俳人22名のそれぞれの作品100句を集成した「シリーズ第3弾」(?)ともいうべき1冊となるようである。総覧をみると、何故あの人やあの人が入集していないのだろうという望蜀の思いも若干ないではないが、ニューフェイスの福田若之や南十二国、関西の実力派である岡村知昭や小林千史、また、その他に望月周、依光陽子などの作者名が見え、全体的にバランス感覚の優れた人選となっているように思われる。『新撰21』、『超新撰21』、そして今回の『俳コレ』と眺めてみると、俳句の世界も思ったより作者の層が厚いといえるのかもしれない。

10月某日

『現代俳句文庫67 小島健』(ふらんす堂)を繙読。

著者は、昭和21年(1946)、新潟県生まれ。10代半ばより句作をはじめ、岸田稚魚に師事。稚魚没後、角川春樹に師事。平成7年(1995)、第1句集『爽』。平成14年(2002)、第2句集『木の実』。平成20年(2008)、第3句集『蛍光』。今回の『現代俳句文庫67 小島健』は選句集であり、全400句を収める。

きらきらと子供の声や花辛夷
白鳥の首やはらかく混み合へり
男らに日暮の匂ひ花石榴
近く来て遠きこゑなり都鳥
白梅のはじめは草のいろなりし
旧盆や海より川の冷たくて

全体的に落ち着いた雰囲気の作品が並ぶ。若い頃から岸田稚魚に師事していたとのことで、その影響というものが基本的なベースとなっているのかもしれない。また、どことなく岸田稚魚と同じ波郷門であった細川加賀の名が思い浮かんでくるようなところもある。全体的に品位と滋味に溢れた選句集。

海鼠桶覗きて誰も無口たり
梅雨明けの街真つ白になりにけり
薄荷の葉噛めば涼しき山河かな
湖のいろを昨日に龍の玉
強霜の解けゆくときのこゑ青し
月光に張り付いてゐる守宮かな

11月某日

『スピカ』第1号と『-俳句空間-豈』52号が刊行された。

どちらもそれこそ総合誌の内容を凌駕するほどの充実ぶりを示しているといってもいいであろう。

『スピカ』の特集内容は、「男性俳句」で、2つの座談と3つの論考で構成されており、小特集が「ふたりの鈴木」で鈴木真砂女と鈴木しづ子が取り上げられている。他にもHPのサイトからの転載など随分と多彩な内容となっている。いづれ刊行されるであろう第2号の内容にも今から期待がかかるところ。

『-俳句空間-豈』52号の方は、「被災記」、「前衛は生きているか、伝統は死んだか」、「ジャンルの越境」という3つの特集で構成されている。

2冊とも、細かい内容にまで言及すると収拾がつかなくなってしまうので控えるが、どちらも共に一読の価値あり、ということだけは言っておきたい。

11月某日

前田霧人句集『えれきてる』(東京四季出版)を繙読。

著者は、昭和21年(1946)香川県生まれ。17歳の頃から句作を行っていたそうである。俳号の「霧人」は「きりひと」と読むとのこと。昭和59年(1984)、「十七音詩」入会。平成12年(2000)、「火星」入会。平成14年(2002)、「草苑」入会。平成15年(2003)、「天街」入会。平成18年(2006)、「杭」入会。同年『鳳作の季節』刊(鬣賞、山本健吉賞受賞)。平成20年(2008)、「新歳時記通信」創刊。たしか『新歳時記通信』の記述では、金子明彦の弟子ということになるそうである。

金色の蝶の飛びゆく枯野かな
青い空あるばかりなり街の冬
いつか吾子に伝える日記書き始む
秋空に解き放たれて俺の旅
胸の上の中也の詩集鳥雲に

全体として素直で抒情的な作風といった印象。人生の感慨がそのままストレートなかたちで表出されている句が数多く見られる。

泥川に水鳥の群れ散華として
空飛ぶは楠の夢なり青嵐
初蝶に過去あり野辺に未来あり
さよならと魚を帰す春の水
人体は六割が水シーラカンス

11月某日

現代詩の最近の刊行物をいくつか。

  • 辻和人詩集『真空行動』(七月堂)
  • 『秋元潔詩集成』(七月堂)
  • 小柳玲子詩集『さんま夕焼け』(花神社)
  • 林嗣夫詩集『あなたの前に』(ふたば工房)
  • 川中子義勝詩集『廻るときを』(土曜美術社出版販売)
  • 高橋睦郎詩集『何処へ』(書肆山田)
  • 大野直子『化け野』(澪標)
  • 倉阪鬼一郎詩集『だれのものでもない赤い点鬼簿』(マイブックル)
  • 藤井貞和『春楡の木』(思潮社)
  • 八柳李花『サンクチュアリ』(思潮社)
  • 野村喜和夫『ヌードな日』(思潮社)
  • 田中清光『三千の日』(思潮社)
  • ゲーリー・スナイダー『リップラップと寒山詩』(思潮社)
  • ゲーリー・スナイダー『ノー・ネイチャー』(思潮社)
  • 『NHKカルチャーラジオ 詩歌を楽しむ 詩を読んで生きる 小池昌代の現代詩入門』 (NHK出版)

11月某日

短歌関係の最近の刊行物をいくつか。

  • 田中拓也歌集『雲鳥』(ながらみ書房)
  • 佐佐木幸綱歌集『ムーンウォーク』(ながらみ書房)
  • 今井恵子歌集『やわらかに曇る冬の日』(北冬舎)
  • 『桑原正紀歌集 現代短歌文庫シリーズ 第93』(砂子屋書房)
  • 『松平修文歌集 現代短歌文庫シリーズ95』(砂子屋書房)

『松平修文歌集』の内容は、第1歌集『水村』(全篇)に、『原始の響き』、『夢死』、『蓬』の各歌集の抄出で構成されているとのこと。『水村』は、たしか小説家の北村薫も嘗てどこかのアンケート(『リテレール』だったか)で取り上げていた記憶があるが、長い間入手困難であった歌集であり、それこそネットではこれまで数万円の高値がつくほどであったのだが、今回漸く安価で入手できるようになったのは悦ばしい。

11月某日

俳句関係の最近の刊行物をいくつか。

  • 『澁谷道俳句集成』(沖積舎)
  • 齋藤愼爾句集『永遠と一日』(思潮社)
  • 中村堯子句集『ショートノウズ・ガ―』(角川書店)
  • 武田肇句集『二つの封印の書 二重フーガのための』(銅林社)
  • 前田霧人句集『えれきてる』(東京四季出版)
  • 『ふらんす堂通信 130』(ふらんす堂)
  • 『スピカ』第1号
  • 『-俳句空間-豈』52号
  • 『里』102号
  • 『円錐』51号

11月某日

中村堯子句集『ショートノウズ・ガー』(角川書店)を繙読。

著者は、昭和20年(1945)、京都府生まれ。昭和49年(1974)、桂樟蹊子の「霜林」入会。師の没後、昭和54年(1979)に上田五千石の「畦」に入会。平成10年(1998)に中原道夫「銀化」に入会。句集に『風の的』、『樹の音』があり、今回の『ショートノウズ・ガー』は第3句集となる。篠原資明の帯文がエレガントで実に素晴らしい。

古池の泡新しき四月かな
蘂のびるやうに穴出る裸かな
踊らんか瀑布の上いつも舞台
つややかな耳垢月の砂漠かな
昼寝覚め岩いろの蝶岩をたつ
荷作りの紐解くやうに紅葉狩
千枚漬糸引く光源氏たち
雛祭スープに石の匂ひあり
橙に葉があり旗を出し忘れ
吾亦紅その斑楽譜のなかにまで

随分と手強い句集である。相当に手が込んでいて、なかなか一筋縄では読み解けない句が多い。ある種の「違和」の感覚を呼び起そうとする意図が内在している、とでもいえばいいのであろうか。その作品からは、アナロジーやメタファーなどの手法の駆使による、言葉と言葉の意外な関係性から派生する不可思議な「手応え」のようなものを感取することができる。

蛇泳ぐジャズより黒く快く
粉抓むときの軋みや蝶つまみ
ほうれん草湯がく白髪頭かな
瀧落ちて善悪貧富貫けり
辛うじて白梅つつむ薄日かな
あかあかと鳥の影のる紫蘇畑
蛙座すチョコレート溶けさうな石
片手出て夾竹桃の上の窓
狐火や大事なことは箱の外
瓶に水春をどこへも出かけずに

11月某日

関悦史句集『六十億本の回転する曲つた棒』(邑書林)の発売日が12月10日に決定したとのこと。定価は2100円。

句集の栞文が松山巖、帯文が安井浩司、帯の15句選が黒田杏子の担当となっているそうである。

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