麒麟へ
おかげさまでわずか1週間で退院したぜ(ドヤ)あ、今回送ってくれた桃すげーな!桐箱入りの桃って初めて見たよさんきゅ!いまだーりんと仲良く食べてるよ(はあと)…というのは嘘だ!あたしはいま思いきり震えた手で泣きながらこの手紙を書いている、え、早速婚約解消ですか虫さん?違う!じゃああれだいわゆるマリッジブルーですね虫さん?違う!いいか、こんな話は男の麒麟にはイミフかもしれないが今後モテたくばよく聞け!まああれだ、麒麟も書いていたようにあたしは実はかなりのモテ女なのだ、しかしときにモテたくもないのにモテてしまふ、という大変迷惑な事態もあってだな、ぶっちゃけて言えばレイプとか痴漢とかストーカーとかセクハラとか呼ばれる類の被害には全て遭遇していると言っても過言ではなく、今回の入院もPTSDが悪化してのことだったのだが結局完治しないまま諸事情により退院した。でもまあ結婚てゆう薔薇色の日々が近いうちに待ち構えているのだから大丈夫だらふと思っていたが甘い、甘いぞ麒麟!あたしはいま毎晩何をしているか?かつての加害者どもがあたしを蹂躙する悪夢を壊れたレコードのやうにひたすら見続け身体は硬直し痙攣し呼吸困難を引き起こして酸欠で目覚める、延々それをやっている、しかもだ麒麟ここからだほんとに悲しいのは!その悪夢に出てくる加害者どもが、いつのまにか愛しのだーりんとすりかわってしまってんだよ!脳内マジック!なんで好きな人に抱き締められながら死ぬほどの恐怖で気絶しなきゃいけないのー!わあああああ!わたしのバカっ結婚相手とレイプ犯を混同するなんてこんな自分は罰さねば!というわけで、いまあたしの手足は無数の剃刀キズで大変残念なことになっている、愛しのだーりんも、困り果てている。こんなんで結婚とかさあ、ああ、もう、ほんとにさあ、ねえ。と、まあこれだけ赤裸々なことをだらだらおまへに述べたのは、まじでモテたかったらだな、女性のほぼ全員は何らかの性被害に遭っており、みな口には言わずとも心の深いところにそれを潜ませて生きているってこと、真剣に理解しなきゃダメだぞってこと、ツンデレなんか
さ、ほんとは上っ面の手口なんだよね、ほんとに愛し愛されたければ男女の上っ面のいとなみだけじゃなくて隠されがちな暗い側面にも目を向けないと(多分)砂上の楼閣だよ(多分)それは(多分)俳句にもいえることだよね、まあいまあたし正直俳句どころじゃないんでエラソなこといえないけどさ、この手足のキズが癒えたらきっと書くよ、人間の俳句。まあ、痛々しいとか揶揄されて終わるかもしんないけど、うっせーバカって無視して書くよ。うん、そーだな、人間の俳句が書きたいね。なんか俳句のこと考えたらちょびっと元気になった。麒麟と友達でよかったよ、男って性被害の話題になると結構引く奴多いからね、あんたはなよなよしたとこあるけどなんだかんだゆって優しいよ、聞いてくれてありがと、麒麟がくれた桃、枕元に置きっぱだったから腐りかけてんだけどたべるよ!食べて、吐いて、泣いて、生きる!死んだら返事が書けないしね。じゃあな!
虫
虫さんへ
虫さん、虫さん、大丈夫なんかじゃないんだろうけど聞かずにはいられないから聞きますよ、大丈夫?元気ですか?
虫さんとにかく退院おめでと、結婚も良かったよ、ほんと良かった。桃、たくさん食べてくれてありがとう、きっといくつかは泣きながらもキッとした顔で食べたのでしょう、見えるようです。
あぁ、京都ッ!もっと近かったら!もどかしいな!
虫さん、返事が遅くなっちゃったのは、
虫さんに何て返そうかちょっと悩んだからです。なんというか、同情とかそんなんじゃなくて、うまく言えないけど、心配してます。虫さん、手も足も傷だらけになっても、わめいても泣いても無茶苦茶でも、虫さんは綺麗です、近頃、獏の俳句を考えています、虫さんが悪夢を見ませんように、悪夢がみんな桃に変わりますように!
虫さん、前に短歌を送ってくれたの覚えてますか、なんだか妙に、読みたくなって、虫さんが照れ臭くってクシャクシャにしてポイッとしたやつ、ほら、僕が書き写した虫さんの短歌ね、あれ読み返してみました。あれ捨てたと思ってたでしょ?ちゃんと持ってるよん♪
怒るかな、いや、ほんとには怒らないと、わかってます。
●腰かけた、足をぱたぱたさせて、ソレ!求愛行動、求愛行動!
あぁ可愛い、ぎゅっとせずにはいられない歌
●大丈夫?ええ大丈夫と答えた瞬間ダイジョウブはすぐ腐りはじめる
聞く方も聞かれる方もほんとはもっと、ちゃんわかってはいるんですが、それでもやはり、聞くもんです。
●ありふれた悲劇を提供するたびに両手に余る同情をくれ
愛はポーズじゃないし、欲しいものは理屈じゃない、ほんとに欲しいものはそういうのではない。
●だだっ広いところへ行こう茹で卵でお手玉しながら裸足で踊ろう
楽園があるなら、きっとそんなところでしょう、僕ならお手玉見ながらサンドイッチが食べたいな、卵とハムとトマトで三つ。
●理不尽な現実を目の当たりにして叫んだことが嗚呼一度も無い
きっと虫さんが見えすぎるわけじゃないと思うんです、そうじゃなくて、ただただ正直なんでしょう、とか言ったら照れながら怒りそうだけど
●恋人と電話しながら洟をかむ恋人と電話しながらおしっこをする
麒麟「夏だしさぁ、なんかドキドキしたいなぁー」
虫「だからお前はガキなんだよ」
●奇妙なことをしてはいけないなぜならばなぜなんだろうおいなぜなんだ
いったい何が奇妙なんだろう、何が奇妙でないんだろう、ねぇ
●憐れむなあたしが叫ぶ数式の無限の序列も見えないくせに
細くても良いから高く高く、鋭く、一本の剣のように気高くありたい、細くても良いから決して折れる事のない
●わたあめと焼きそば買って破産したおもちゃのダイヤにしとけばよかった
虫さんが病室でしてたおっきなおもちゃの指環、キラキラしてましたね、あの嘘まるだしな輝きを、虫さんは優しく愛してましたね
●よせ、よせ、よせ!そっちは底なし沼なんだ!…でも底が知れてるよりましよ?
麒麟「プライドと勇気と愛と、そういう事?」
虫「ブフッ(桃を吐くっ)、お前はネバーエンディングストーリーか!?ブハハハハ」
虫さん虫さん、僕は短歌の事はよくわからないけど、虫さんの短歌はうまいとか下手とか綺麗とか生とか、なんだかそんな、そんなつまらない事じゃない気がします、あれ、あれ…、うーん、虫さんの詩も、俳句も、うーん、きっとそうなのかな…、前衛意識とかなんとか、関係ないのでしょう。ただただ虫さんの叫びを正直に、あ、それが虫さんの人間の詩なのかなぁ。
極楽も地獄も蹴っ飛ばしてただただ生きていきましょう、僕もきっとそうするから、虫さんが辛い時は桃あげるから、僕の方が死にたくなったら、どうか句をください、命の句を、そんな事しながら120ぐらいまで生きてやりましょ!
長くなったね、それじゃまた、返事待ってますよ。
ばーい
麒麟