いのちのはだか 亜久津歩
椅子に乗り
椅子を降り椅子に座ると
闇は見慣れた床へ戻った
あの頃の夢に暮らしてあの頃を
まだ夢にみるとむらうように
献花台で食べるパンケーキのような日々
焼かれるようなありかただけが
うつくしかった夢のあとさき
亡骸はなきながら
おとこのこを産みました
春光の充ちる浴槽に湯をはり
こわいほどあびる 天のあかるみ
こどもはきらいでした
許すための罰はいらないのに
あまりにもあまやかな棘
はじける石鹸玉を終わりまでみる
ふかふかの白い生地にも
きらわれるこどもでしたか
いつまでも明日は拭えませんね
ましてや 昨日など
まっすぐに腕を伸ばす声も
ひりひりしみるいのちの素肌も
もう二度となくせないから喪失に
えいえんというルビをふりたい
ああ、また焼きあがる 次のまぼろし
膝から崩れ落ちたとしても
疵一つ つかない部屋に
埋め合わせることなどできない
はりさけそうな何もなさを
こわいほど許されて
はだかのわたしたちの
棘はまるで 花束のように