第4回詩歌トライアスロン受賞作「煮汁」戸田響子 « 詩客 SHIKAKU – 詩歌梁山泊 ~ 三詩型交流企画 公式サイト

第4回詩歌トライアスロン受賞作「煮汁」戸田響子

詩歌トラ527【第4回 詩歌トライアスロン受賞作】

煮汁   戸田響子

昨日こんなことがあった
電話ボックスの中で受話器を取ったら裏っかわの人につながって流れ出てくる
煮汁
非常階段を上っていたらいくつもの足音が重なり合ってなだれ込んでくる
ブロイラー
美術館の片隅に落ちていた綿埃が空調の風に転がりながら進み出て
いか釣り漁船
無人の蕎麦屋で古いブラウン管のテレビから野球中継だけが流れ続け
終わらない

ピッチャーが土をならしたその足が振り上げられた直後の速報

いつも通る駅前のブティックのマネキンの顔は
横から見るとすごく変
お骨を拾う箸がAmazonで売ってるんだよ
二膳セットで
六百円で
リンボーダンスの棒は誰が作っているんだ
毎日の一滴一滴が煮つめられどうしようもない煮汁となってあふれ出す

真夜中に昨日と今日が溶け合って少し焦げ付くにおいがしてる

インターフォンが鳴る
何を煮ているんだ
圧力鍋で

温水プールには温かい水に様々な物質が溶けてこんでいたが
液体と気体の境界はあまりにもはっきりとした線で区切られていた

落し蓋は
落し蓋がいるぞ
落し蓋がないじゃないか

天気予報があたらないからもう傘は捨ててしまって水中にいる

ダンボールをたたむ仕事をしていて
もう何枚たたんだかわからない
それは洗剤の段ボールだったこともあるし
みかんやりんごの段ボールだったこともあった
何が入っていたのか見当もつかない段ボールもある
だが何かは入っていたはずだ
ダンボールから葉っぱが一枚
作業場のリノリウムの床に舞い落ちた

空っぽの鍋は空っぽを料理してことことことこと煮つまってゆく

毎日の通勤列車の窓の外電球一つ切れている店

ワンコインランチの行列どこからか着信音の「威風堂々」

たくさんの人が歩いているけれど誰にもぶつからないんだ街は

マグニチュードと震度は違うと大声で隣の客が言うのを聞いてる

真っ白な月が出ていてそういえば少しは丸くなった気がする

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