春脈   亜久津歩

詩歌トラ624
【連載 最終回(全6回)】 詩歌トライアスロン

春脈   亜久津歩

 夢見てはならないことがないのなら―

泣きながら名を呼ぶ夏の夜明け前
くぼんだ胸をひらくと(然るべき別れ
腫瘍のような閨がふくらむ
なまぐさい紙の上
おまえのかたちに臥せたまま
        
霧雨の午前十時の腕まくら(などなく
しとど濡れる桔梗に ふやけた窓に(大切に
ほつり浮く爪痕は美しいのに
つけた傷ほど花ひらくのだ
わたしの灰を聴きとれそうな燃えかたで
         (たいせつに後悔して

雪の椅子エンドロールは夜にふる
ならばいちめんの白布を祈るいとけなさよ
懸けられた月日を素足にとざし
腐葉土の怒りのように
しずかな しずかな春を立ちあがれ

               (います)
 「われらは言葉の器あるいはクオリアの車輪
  旋律のための洞と像のための軸をもつ円筒
  であろうといのちが吃るたび溢れるように
  誰に愛されず何も選ばれなくとも詩がおり
  世界を軋むことができる。ささやかな地平
  を裂きさなぎのように孕む飛躍を曝すとき
  喉もとの歌の悲痛をもう産声とまちがうな
  わたしを濾過するただあなただけの雷鳴を

 愛されるよう産んであげたい

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