頸骨に咲く花   横山黒鍵

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頸骨に咲く花   横山黒鍵

こわいかい
こわかぁないよ
そうか、よかった
ねえ、おとうさん
 おとうさんを、忘れても、
いいですか?

((((((指のために奏でる今日を探す
  朽ちたか
  空を舞う 鳶か
  左腕が たびに出た日))))))

日傘の先端に空を突き刺して
てぶらでいこう
(さらさらと蒼いろの血をしたたらせそら切り開く猛毒の昼 ま
くちをぬぐうまもなく
しあわせの虚像はむすばれる
冷たい海水と温かい海水に
ふわりと楼閣はうかびあがり
はまぐりの見せる幻なんだって サ
(みずくさい豆腐屋の娘のおびほどきはまぐり吸にうかぶしろ(じし)
こころにも、いない

誰を、さがしてるの サ
左腕です、とりにきく
さようで
簡単に取り外しできれば よかったのですが
ねえ
むすめよ きいておくれ
おとうさん ふぐになっちまった
ぷーってふくれ/刺して/ちりちり
鍋にしちまい ナヨ
前髪を切りすぎた春
前髪が伸びすぎた夏
みえにくいちち
ちちは みにくいかゑゑゑゑ
絞め殺す鷹の最後の鳴き声が釜飯のなかにあるはずもなく
僕のひどい戦争は明日始まらない
菊のはな、ちらし
はらり、しゃもじからこぼれる

右手だけでもひける
黒鍵だけをたどれば
軽く ゐく芍薬
曳航の 破船
海にひさして サ
ハンマーの壊れたピアノと
闇を這い回る蟲の擬音
左腕の所在が
ぶんと翅音とともに飛び立つ
「月を、さしました
あさ、が消える
夜になるわけ、でもないのに
かさ、が消える (雨音だけのこして
左側にあるもの、すべて
なくしたわけじゃない

「 qwert ( ゆっくりと

「 asdfg ( 手触りをたしかめるように

「 zxcvb ( これがあなたの世界でしたか

呪文のような軽やかさにふくらんで
あなたたちを とおりこしていく
ひるがえる 臓腑から
痛み(伊丹)/飛び立った 故郷までは
(ゆきさえ ふらなければ
(かぜさえ ふかなければ
一時間も かからない
アドバルーン春を追い越し紀元替え

鍵盤を模したる歯列のうちがわの男性器なる錘をはじく
滑舌は、そう
なんとかなりそうだ
(ハイトーンがはしゃがれる
むすめよ 僕の 車椅子をおしてはくれなゐか
月下に烟る誘蛾灯、ならぬ
誘烏賊灯、にイかされる
左腕がたとえば 釣りあげられて
紅の珊瑚を飾りつけた
うつくしい人魚のように
指の感覚が
しびれているから それは
恋ともいえる いえるのだろう
以下、
いってしまふのですか
ゐってしまはれるのですか
そこは 夕闇のりんご
むすめよ おまえのうでを
僕にくれないだろうか
紅く にじんで
緞帳(いまわ)のような重さで
網を ()

椅子をもちかえらなければならない
蓋をとじたまま
鍵盤とむかいあう
よろこべ 頸椎が
がくがくと 午后の
紫陽花の彩りを 毟り
(つつが)なく 雛を介護せよ
物語る左腕に
垂らす 音楽の今日
弓引く 薄い月だけが
ひややかに 
花屑を踏み散らしゆくひとごろし
夜を(時制を) 空洞へ変える
ひたたかな 音響
(ゴールドベルクヴァリエーションズ
射抜いたるいぬは右腕を抱きしめて寝ぬ
圧力を外に逃がし
それは剥がれざるものを
剥がそうという強引なちから
ちちまい(いちまい)、おちて

むすめよ
僕はきょうも
こわかった

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