真珠   中家菜津子

真珠

真珠   中家菜津子

わたしの名は呼ばれても
けっしてわたしは呼ばれない
呼ばれているのはそれを行う
から、だ

言いつけを守る
従順な耳の代わりに
なにかあてがおうとして
エゾヒバリガイの殻を
ふたつにわる銀色のひかり
閉じ込められていた
ひばりが宙をひっかいて鳴き
墓標を探して飛び去るのを
目を閉じて眺めた
刃先になにか
曖昧な硬度にふれる

遊戯するように生きていた
びらびらしたやわらかさを
微生物の群れが啜ったあとには
もう何万年も忘れ続けたようにゆるした
化石の耳がふたつと
生死に動じることを拒んだ卵のように
一粒の真珠がのこっていた

泊の貝塚からは、四千年前の海獣の釣り針や、真珠が見つかりました。縄文時代、
人々は等しく円周に暮らし、中心には不在を置きました。誰かが中空の世界だと呼びました。
泊の真珠は日本最古の穴をもっています。真珠を身につけていたのは、男か女かという問いに意味は
ありませんでした。中心には無意味を置いていたのです。
(うれしかったです)

えんしゅうに、はつでんしょがたちました。核をつつむしんじゅのようなたてものがたちました。チェ
レンコフのあおいひかりのいろをだれもみたことがありません。ちゅうしんにくらすひとが、うみより
もきれいだといいました。
(いみにつかまりましたか)

    で 
  憶   は
記       白
  の    い        
   珠 真
                               首飾り今祖母は手に時間をのせる

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