新大久保   井口可奈

◼️第6回詩歌トライアスロン受賞・連載第4回
sinohkubo

新大久保   井口可奈

豚バラを焼き春の野に捨てるまで

わたしはあなたをいずれ殴ると思う
それは仕方がなくて、夢みたいで、うずうずしてきて
でもたぶん今じゃない
から、パリミキの前で待ち合わせて、お揃いのもこもこした上着で、歩道に引かれた線を無視して右側もひだりがわも歩く
ことにする

絵が描けるようになりたいあなたからわたしまでのグラデーション 撲つ

立ち止まって食べてはいけないのならば
売らなければいいのに、売ってるから買うし
食べる
歩きながら食べられる人と、歩きながらでは食べられない人がいて
だいたいの人は
食べられない
と思っているけどほんとうにそうですか
やってみて
うん、やってみる

ひきのばしつづけてチーズちぎれたら聖書の言葉はむずかしすぎる

パステルカラーの看板に描かれたマカロンには
マカロンではない呼び方があり
それはたぶん韓国のことばで
口がたのしくなることば
を、何回か言って忘れてしまう
いえる?
うん、いえる
そう言ってあなたはもう忘れている

マカロンをほぐして春の暑さかな

たのしいあいだにあなたは帰り
ねむくなるまえにわたしも帰る
日が暮れるとすこしずつ、新大久保には
暴力のにおいがしてくる
ポリス、プリーズ、と叫ぶたび
口を押さえられている男性は
長い布を身にまとっていて
三人
が、男性をゆるく取り囲んでいる
交番はすぐそばにある
改札もすぐそばにある
ウーバーイーツが事故を起こして去る

アメリカンスピリット吸う春の蝿

みんな普通に暮らしているだけなので
たまにその普通がぶつかる
と、いうだけ
だから無視をして歩けと
わたしは(わたしではない方のわたしは)
あなたに(これは山ほどいるあなたのことです)
教わった
ときどき叫び声がする、けど
全部に反応してどうする
とあなたは言うので
わたしはイヤホンをつけて音楽を聴いている
音が大きい曲を選んで
それがちょうどひとりぶんの光

手のひらの厚さみんなの名前呼ぶ

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