ニュービギニング   山川創

ニュービギニング

ニュービギニング   山川創

はじまりはいつも暗闇
めくられたページの一枚一枚が塔

あくびする飼い猫の脳の中身は
まばたきを数回してしまった間に
すっかり入れ替わっていた
部屋から見えるブロック塀は
倦怠感を漂わせたまま歌う
その歌はわたしの耳を通り抜けない

だからわたしは向かわなければならない
そのための乗り物が設えられるより前に
降り始めた雨の一本一本を見つめながら
すれ違う人々の髪の毛を切り刻みながら
そのための服装がどこに売っているのか
どんな衛星にもわからなかったとしても

星空に誰かの骨が飛び散ってやがて浮力は消え去っていく
人類の到着を待ちわびて食う饂飩に少し溶けている船
水棲になれば明日も平和だと思う 緑も戦争の色
テイキットイージーいつか降り注ぐ痛みの中でわたしに出会う

わたしが魚を殺しつつ考えたことと
あなたが牛を殺しつつ考えたことが
一致している可能性

警句を吐き散らしてあなたは
わたしの親友に成り下がった
魚が汚される
牛が焼かれる
かつて魚も牛も人称を持っていて
それを奪い取るための力が
あなたにあったとしたら
どうした?

親友を定義付けたい 牛が跳ね魚が草を食んでいる午後
新しい朝食を経て示された未来予想図 日本は遠い
長い春が終わったあとの食卓に漂い着いた賛嘆の声

与えられた権利を享受するために
正しい言葉を使って正しい振る舞いを!

一日一枚の切手でどこまでいける
育ちきったわたしたちはどこに向かう
感情は必要だから声に乗る 植物たちの呼気の総量

人が人を呼び戻す声を素敵だと思った
人は声に吸い寄せられて
歩くように泳ぐ生き物だ
青ざめて世界はずっとそうだったことに気づいた 海底の水

わたしの門出は祝われる
虫の声と警報音が混ざり合って
わたしに飛び立つよう促している
箱の中に入れるならば
虫のよりも人だということに得心する
あたりはまるで白夜のように
明るさを取り戻した

超新星爆発または春吹雪

切り落とした腕に抱かれて契約書はどうしようもなく劣化していく
動物に喩えるならば痩せた犬 ペットボトルを逆さまにする
被害者たちと加害者たちがいる庭で夜までずっと焚き火している

血を嗅いで大きくなった 鼻歌で奏でているLa Marseillaise
またここに戻ってきたと安堵して暗闇を飲み干していく猿
寒いなら紙を燃やせば暖かい 塔に落ちるはいつも雷

だから誰かに許可を求める必要はなかった

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