第7回詩歌トライアスロン三詩型融合受賞連載第2回/足   草野 理恵子

第7回詩歌トライアスロン三詩型融合受賞連載第2回
足   草野 理恵子


(雲)

ここに隠れて何年かな?
十年かそんくらい
ドアを薄めに開けて彼女は答えた
言葉が文字になってしばらく漂い
彼女の足元に落ちた
甲にのったそれを払うと
暫くして黒い線になった
この風景にも慣れた

ある日
黒い雲が押し寄せ
皆変になった
そうとしか言いようがない
僕も変だ
彼女が好きなこと以外

黒い雲押し寄せみんな変になる 足の甲にのる文字「きみがすき」


(海岸)

暗い海岸を
背中を向けて歩いて行った
岩礁のひとつひとつの岩も
裸の人みたいで
君が動く度のけぞった
押し寄せる波が
君の足を濡らさないよう祈った
今のことしか願えなかった

不用意に体の一部を動かせば
取り返しのつかないことが
起きそうだった
磨かれたような岩があり
私を斜めに映していた

歩く度足元の岩のけぞって君を見送る私と共に


(靴)

僕は君の靴を前にずっと座っていた
通り過ぎる人もいなかった
君の靴を見続けていると
君の靴が腐り
君と行った風景が現れる
飛んだマフラーを追って走った
手の先が指が赤くなって
そんな色

濃い緑のマフラーの色で包まれ
体温が滲みだし
君の靴がだんだん
君の足になる

言わずにいたことを
告げる

君の靴腐っていくまで見つめてる 足になった日やっと愛告げる


(草むら)

草むらで空を見て
脚を失った友達のことを考えていた

がさがさという音が鳴り
友達の彼女の後姿を見た
がさがさと動いた
僕もがさがさと動いた
なんにも言うことがなくて
がさがさと動いた
草むらは途切れることなく
二人いつまでもがさがさと歩いた

がさがさが失われた友達は
もうがさがさができない

草むらで脚を失う友思う がさがさともう歩けないがさがさ


(渦巻き)

雪の降る日
屋上に上った
僕だけの足跡のため
靴下を脱いだ
指の間で溶ける雪は汚れ
汚い水になった

空がゴッホの渦巻きになった
美術の授業で見た
何故耳を受け取ってくれなかった?
友達じゃなかったのかな
耳を送ったのは友達じゃないよ
向かいの屋上に長い髪の子がいた

と
も
だ
ち
と美しく発音した

僕だけの足跡のため裸足 空 ゴッホ渦巻き 耳切り落とす

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