天井譚 森川雅美

森川詩「天井譚」

すでに死につつあると水辺に萌す声があり、
循環する光の欠片が止めどなく降りそそぎ、
あざないは終わりも始まりもなくつづいて、
終わりからなおも始まる段の差もあるなら、
私たちの千年はあなたの見る千年と異なり、
無数の痕跡にかすかな光もなおまたたいて、
消えていくまで手足が日がな一日痛み続け、
ぼろぼろになっていく来迎の紫雲がのびる、
哀しみは失われていく小さな傷口の別名で、
どこからがしずかな朝の光線の延長なのか、
降りそそぐ魂の破片があつい塊となり沁み、
何度も呟かれるかすかな声に心の音は揺れ、
散らばったひとつの問いとしてありつづけ、
最後まで立ち続ける生きる眼は失われても、
忘却する意識に抗うためゆっくり踏み出す、
すでに語る言葉すらない傾斜をすべり落ち、
湧きだす形すらない手足が語り続けるから、
眼が崩れる風景から抜け出せず立ちどまり、
どんな白の光が暗闇に斜めから射しこむか、
新たに成長する背骨が痛みまだここにあり、
ならば欠落する記憶の奥底からのぞく顔の、
開く水の流れを踏みしめる知らぬ人の足は、
どんより霞む現在の起伏する地形に沿って、
何処までも小さく分散されるから掌の内に、
弱る呼吸がとぎれとぎれに伝わり揺らいで、
まだ光る道筋も続くのだと足裏は繰り返し、
傷口にさらされる細く荒れた血の管になる、
剥きだしに置かれたぼくたちの抜けがらが、
翻りながら舞いあがり晴天の彼方に消えて、
陽だまりの足跡はひとつずつ冷たく燃える、

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