すでに死につつあると水辺に萌す声があり、
循環する光の欠片が止めどなく降りそそぎ、
あざないは終わりも始まりもなくつづいて、
終わりからなおも始まる段の差もあるなら、
私たちの千年はあなたの見る千年と異なり、
無数の痕跡にかすかな光もなおまたたいて、
消えていくまで手足が日がな一日痛み続け、
ぼろぼろになっていく来迎の紫雲がのびる、
哀しみは失われていく小さな傷口の別名で、
どこからがしずかな朝の光線の延長なのか、
降りそそぐ魂の破片があつい塊となり沁み、
何度も呟かれるかすかな声に心の音は揺れ、
散らばったひとつの問いとしてありつづけ、
最後まで立ち続ける生きる眼は失われても、
忘却する意識に抗うためゆっくり踏み出す、
すでに語る言葉すらない傾斜をすべり落ち、
湧きだす形すらない手足が語り続けるから、
眼が崩れる風景から抜け出せず立ちどまり、
どんな白の光が暗闇に斜めから射しこむか、
新たに成長する背骨が痛みまだここにあり、
ならば欠落する記憶の奥底からのぞく顔の、
開く水の流れを踏みしめる知らぬ人の足は、
どんより霞む現在の起伏する地形に沿って、
何処までも小さく分散されるから掌の内に、
弱る呼吸がとぎれとぎれに伝わり揺らいで、
まだ光る道筋も続くのだと足裏は繰り返し、
傷口にさらされる細く荒れた血の管になる、
剥きだしに置かれたぼくたちの抜けがらが、
翻りながら舞いあがり晴天の彼方に消えて、
陽だまりの足跡はひとつずつ冷たく燃える、
天井譚 森川雅美
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