第9回詩歌トライアスロン三詩型融合部門候補作
FUYU NO MINATO GIRL 雨月 茄子春

第9回詩歌トライアスロン三詩型融合部門候補作
FUYU NO MINATO GIRL 雨月 茄子春

春、
  墓に腰掛けて写真を撮ってみるその足元の下に空洞
があることの、誰もがその本質に気づいていないような
春、
車で二時間の距離にある、梅の木に囲まれた墓地には
廃棄されたのだろうか?
旧式のポストが雑然と並んでいた
  梅林にポスト二〇基立ち並ぶ
  二〇基のポストに二〇の口があり夜低く鳴る風の日に鳴る

おじいちゃん
わたし、結局トランペット吹かんかった

その頃ネジ拾いに夢中だったわたしは
幼稚園の裏にある広い原っぱのサッカー場で
逆再生の水紋のように、
  指は今拾い上げたりきっちゃんの蹴る球の弧をくぐってネジを
  夕始め園庭に連れ出され夏
  きっちゃんに怒られる背に蝉なだれ
夏の間じゅうサッカー場には通ったけれど
  パス、シュートならかろうじてオフサイド、センタリングともなればわたしは
ルールがわからなかったのでした
  その前にルールがあるということもわからなかったんだよね、とママは
チームがわからなかった
  夏百日友達だからパスをした
言葉がわからなかった
  来たら蹴る夏誤ったプログラム

おじいちゃんにトランペットを渡されたとき
どうすればそれが鳴るのかがわかった
  秋の園庭に受け取るマウスピース
  わかるのはこの金色のぐるぐるの筒に真っ暗な部屋があること
  洞窟に手を差し入れて取り出した生まれる前の記憶 パサージュ

  雪は地の芯へと降りていくところ
しんと冷えた空気を吸い込んだら
鼻腔のかたちがわかる気がした
  雪玉は大きくなって園庭の肌を剥がした 大きくなった
わたしは大きくなりました
それから肺のかたちになって
  飲みこめばホットミルクは胃のかたち
白い羽毛に覆われたような原っぱは
どこにも寄りつけない居心地の悪さを抱えて
  あるんだよ雪にかじかむ手の中に家系図みたいな血管が、今
  細い細い水路をけれども一枚の葉が流れゆくように、たしかに
  息を吸うわたしの肺にあるんだよ空洞みたいな原っぱ、白い
  画用紙を一面黒く塗りつぶす透明な時間があるんだよ

園長室に掛けてあるおじいちゃんの油絵は
冬の港を描いていて
わたしにはそれが冬の港だと
わかる
わかるんだ

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