赤い門を通過して来た青い耳 ハン・ソンレ(韓成禮)
赤黒い錆びが衰落をかじる音
血球でぱちぱちと青い粒子が縮み
足跡に押されて波打つ脈搏の音
ほこりの中に雷、稲妻、嵐、つむじ風が混じって
古い記憶の中を横切り
白い雪が網膜の中に吹き荒ぶ
黄色く変色した模造紙が風でさっと覆るように
変わる場面
中学校に入ったその年の冬
ベドゥル平野の野原を横切り
一里の道を共に歩いて学校に通った
隣町の女子高生は
塩酸キニーネの錠剤を口にいっぱい詰め込んだ
呼吸を奪われるという意味さえ知らないまま
持って生まれた分の吸気と呼気をいっぺんに使い果たし
魂が、抜け出たばかりの自分の体を見て驚き
行かねばならない道を、まだ発つこともできず
自分のいつも歩いた道を一晩中歩き回った
その忙しい歩みに従い
吹き荒ぶ吹雪の中
どしんどしんと足音なのか、雪の降る音なのか
鼓膜に響くその音でずっと私は眠れなかった
雪が溶けて、捨てられた息の不在が
土に放たれてざあざあと水音に混じりつつ
青く目を開き始める
過ぎ去る風にびゅうっと耳を開く
妙な女の声に導かれて
開かれた赤い子宮の門に訪ねて来た
鋭い聴力、きらめく青い耳
産道を通り抜ける時には誰もが聞いた
地球の公転と自転の音
そのすさまじい音に驚いて
生まれたばかりの赤ん坊は、あらんかぎりの声で初泣きをする
子宮の門に入る前、細胞の中に眠らせた
その肉、その髪の毛、その足の指の爪の中に混ぜ合わせた
あらゆる息の木目、声の破片
赤い門を通過して来た青い耳たち
ハン・ソンレ(韓成禮)
一九五五年生まれ。世宗大学日文学科及び同大学大学院国際地域学科修士卒業(日本学)。一九八六年、「詩と意識新人賞」を受賞して文壇デビュー。
韓国語詩集『実験室の美人』、『笑う花』、日本語詩集『柿色のチマ裾の空は』、『光のドラマ』、人文書『日本の古代国家形成と「万葉集」』などの著書があり、
「許蘭雪軒文学賞」、「詩と創造賞」(日本)受賞。宮沢賢治『銀河鉄道の夜』、丸山健二『月に泣く』、塩野七生と黒柳徹子の人文書や
エッセイ書の韓国語への翻訳書など、日韓間で200冊余りを翻訳。特に、日韓間で多くの詩集を翻訳し、金基澤詩集『針穴の中の嵐』(思潮社)、
『金永郎詩集』(土曜美術社)、宋燦鎬詩集『赤い豚たち』(書肆侃侃房) 安度昡詩集『氷蝉』(書肆青樹社)などを日本で翻訳出版し、高橋睦郎、
伊藤比呂美、小池昌代、田原、一色真理をはじめとして日本の詩人の詩集を韓国で翻訳出版。現在、世宗サイバー大学兼任敎授。