こゑ     松尾祥子

  • 投稿日:2012年09月21日
  • カテゴリー:短歌

こゑ     松尾祥子

脈じよじよに遅くなり父の呼吸音消えゆくを聴く十四の耳

死は父に一度きりなり呼べどもう答えぬ口のほそくひらきて

宵闇に帰り来ませよバイオリンこの世にしんと父待ちをれば

青桔梗しづかに(ひら)きリア王のこゑ聞こえくる嵐の夜を

嵐の夜網戸に耐へてゐし蟬がほとりと落つる快晴の朝

空と木がふれあふごとし肉体を持ちゐる母と持たざる父と

ゆふぐれの身体ゆらゆらゆれやすく桃の香りにすひよせられる

若き日の父に会うため姉と来し前橋駅にバスを待つなり

だれもだれも亡き父に見ゆ前橋のアーケード街歩み来たれば

肩車の上に跳ねつつ父と見き群馬大橋に花火上がるを

群れなしてねぐらにかへる鴉らは澱のやうなるこゑをこぼせり

作者紹介

  • 松尾祥子(まつお・しょうこ)

1959年東京に生まれる。早稲田大学第一文学部心理学科卒業。1985年「コスモス」入会、1992年「棧橋」参加。「コスモス」桐の花賞、評論賞受賞。2000年に『風の馬』(本阿弥書店)、2006年に『茜のランプ』、2012年に『シュプール』(ともに柊書房)出版。2005年よりNHK学園短歌講座専任講師。

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