てのひら、 掌、 テノヒラ 東野登美子

  • 投稿日:2012年11月16日
  • カテゴリー:短歌

てのひら、 (てのひら)、 テノヒラ

てのひらの大きな(おや)らはひっそりと夜叉ヶ池のほとりに居ました

てのひらの大きな祖父はふんわりとウズラたまごを包んでみせた

()の傷のわけを話さぬ祖父は(そま)、農民、そして兵士であった

てのひらの小さな傷は楔形文字のように並んでいたよ

二十年話さず生きてきたきみの言葉はこの()に刻まれている

やわらかきその頬打った(てのひら)を湯につけていた赤くなるまで

伝言のかわりに吾が()に爪を立てきみは切ない顔をしている

テノヒラにココロのとびらがあるようで摩ってみたり擽ってみたり

くちゃくちゃに丸めてしまった便箋を広げていますテノヒラアイロン

幼子のぬくもりとどめるてのひらがわたしのおなかを温めている

てのひらを背中にあてて聴いているきみの心の風の音など

あなたの()がわたしの()よりも小さくて言えなかったことひとつあります

作者紹介

  • 東野 登美子(ひがしの とみこ)

1958年大阪生まれ 「アララギ派短歌会」所属
第一歌集「豊かに生きよ」(いりの舎)
エッセイ集「母へのラブレター」(共著)(文芸社) 
人権ストーリー2007で全国地方新聞社連合会賞

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