ふたりをひとりを 中村幸一

  • 投稿日:2012年12月21日
  • カテゴリー:短歌

ふたりをひとりを

井の頭 秋の日射して手をくぐりももに至れりわかもののもも

先の世で寵愛したという青年が家に来て寝る陽をあびながら

雲ながれ月かげさすときほのかにもこころはれゆき恋わたるかも

九字切れば闇の破れてひかり満つる部屋かがやきてたちたる香り

参道の風カフェに入りきて花をゆらしぬ水吸う花を

陽をあびて茂る大樹の根を張れば岩を砕きて雨を吸いたり

ともしびはゆれつつあはれテーブルにゆれつつ照らすふたりをひとりを

隠したる思いを変えてやわらかく責めたる人の黒く燃ゆる火

大晦日。美輪明宏が降臨しすべてひれ伏す光のなかで

忘れめや雪の参道六人でさわぎ走りぬ雪の深夜を

作者紹介

  • 中村幸一(なかむら こういち)

短歌結社「熾」編集委員。歌集に『しあわせな歌』(北冬舎)、『出日本記』(北冬舎)。

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