春を待つ部屋 鈴木博太

  • 投稿日:2013年03月22日
  • カテゴリー:短歌

短歌・鈴木130322-1短歌・鈴木130322-2

春を待つ部屋 鈴木博太

来院の証であれば入口の粘着シートにあしあとを置く

まるまって母の手で舞う整理券鳩のすうじのはらを見せつつ

またスズキさんが呼ばれるやはりこの名は無印の春を待つ部屋

いつの日も冬であったか陰影は窓の外にて枝分かれする

両わきに続く長椅子うつむいているひとたちをあみだでむすぶ

待合のひとらはなべて鳥のかお名を唱えられ診察室へ

ろきそにんもってないかいばふぁりんはあわなくってというかくれんぼ

女性誌のレシピ頁をめくりつつ検査の母を弱火にて待つ

約束をいくつか思う ひとびとの吐息が編んだ光をながめ

異界へと挿入される図を掲げCT室にさざなみは寄す

更新をわすれた面(おもて) 泌尿器はうすむらさきの春につつまれ

待つあいだひとのせなかが好きだった頃のことばをレールにのせる

むすこさんですかととわれええという雲のながれが水底にあり

窓ごとに雨はふくらみすこしだけとおい海へのあわいみちのり

二度寝する春の深さを信じつつ縮まる母は三月生まれ

会計を終えれば雨はあがるかなからくり時計が動きだしたよ

歩行者用ボタンに触れる むこう側はこちら側より平和なところ

非常口サインから逃げ信号のここにいたのか青いヒト型

傘をさすまでもないから片方の手をさしだして母を誘う

歩きだす色は深みが足りなくてその感覚で地平線をさす

作者紹介

  • 鈴木博太(すずき ひろた)

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